物語プロバンスのパン屋さんで 28「支援員の不安な日々」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

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 (物語)プロバンスのパン屋さんで 28


この物語は、
友人の心ない言葉と、
無責任な大人の行動で人間不信になり、
不登校になった夢見る中学3年生、竹下唯(たけしたゆい)と、
憧れの定年退職後の楽しいはずの時間が、
1本の電話によりはかなく崩れ去った、
元小学校教師深海航(しんかいわたる)の、
偶然の出会いから始まる激動の半年を綴ったお話である。



 

第5章 プロバンスへの道(16)
「支援員の不安な日々」


「先生がいないと勉強が集中してできる」
顔も上げずに言った竹下唯。

第二面談室でひとり頑張っていた唯は、深海航がつくった公民のプリントをやっていた。

深海は、唯の優しさを十分に知っている。
つくったプリントを唯に渡しても、それほど関心を示さないことが多く、
「まあ、しょうがない」程度の顔をしている。


でも、いつもしっかり調べたり、話を聞いたりして、プリントにはまじめに取り組む。

唯は、深海が自分のためにわざわざつくってくれている、

ということを知っているからだ。



唯が、他の支援員たちにいつも笑顔で接しているのも、

自分の内心を悟られないようにして、みんなを安心させたいからなのだ。
唯は、
「他の人の前では、いつも、笑顔をつくってしまう」
という。

中学校1年生の時のいじめ以来、人と会う恐怖が、唯の心の中に染みついてしまっている。
「他の人に悪く思われたくない・・・いつも笑顔でいなくっちゃ」
自分を守るための防衛手段だ。

そして、人を不快にさせないための工夫なのだ。

ただ、そうしていつも気を遣っているから、精神的に疲れてしまう。

学校の支援ルームでも、先生たちにそうやって気を遣って、我慢して、
結局は、疲れ果てて行けなくなってしまった。
学校としても、お手上げ状態であった。



そんな唯に、深海はいつも言う。
「唯は、愛想笑いがとても上手だ」

「無理して笑顔でいなくていいのに」

と。

でも唯は言う。

「こうなっちゃうんだもの。しょうがないじゃん」
しかし、少なくとも深海に対しては、もう、唯は愛想笑いなんてしない。

8月末に、この教育センターに来て2か月が過ぎ、
唯は、自分の気持ちをストレートに、深海には表すことができる。



 

いやな顔もするし、不安な気持ちも正直に言うし、暴言も吐くし。
「ポンコツじじい」「くそ親父」「うざい」「はやく死ね」
可愛い顔に似合わず、激しい言葉の数々・・・。

深海は、正直なところ、唯の言う言葉の真意を図りかねる時も多い。
唯は、自分を本当に信頼しているのか・・・。
本当は、嫌っているのではないか・・・。
面倒を見ない方が、唯にとっていいのではないか・・・。

深海にとっても、ここ教育支援室で不安な日々が続く。


続きます

この作品は創作された物語です。
登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。