物語プロバンスのパン屋さんで 26「ポンコツ誕生!」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

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 (物語)プロバンスのパン屋さんで 26

 

この物語は、
友人の心ない言葉と、
無責任な大人の行動で人間不信になり、
不登校になった夢見る中学3年生、竹下唯(たけしたゆい)と、
憧れの定年退職後の楽しいはずの時間が、
1本の電話によりはかなく崩れ去った、
元小学校教師深海航(しんかいわたる)の、
偶然の出会いから始まる激動の半年を綴ったお話である。


 

第5章 プロバンスへの道(14)
「ポンコツ誕生!」


竹下唯のカウンセリングの次の日、集中してがんばった唯に、
前の日に早帰りだった深海航は、
「昨日、帰るときに窓から可愛い女の子が手を振ってくれたよ」
と、唯に言うと、
「それって、私じゃん」
唯はすかさず答えた。わざわざ深海が言ってくれたことがうれしかった。



 

その日から、唯は「嫌だ」「勉強めんどくさい」「早く帰りたい」などと、
深海に悪態をつきながらも、けっこう頑張る日が続いていた。

模擬テスト2日前、英語の勉強だ。英語専門の支援員は自分の担当の生徒がいたので、
深海が代わりに参考書を見ながらの必死の指導だ。

正直、中3の英語となると、深海にとってはけっこうな抵抗があって、
分からないことも多い。
理解力がかなり高い唯なので、深海よりも理解するのが速いこともある。
そんなときは、
「ホントにポンコツだなあ」
「この、ポンコツ親父・・・」
と、あきれた顔をして唯は深海に言う。



 

また、深海がわかりやすいようにゆっくり丁寧に説明すると、
「もっと速く言って、あまり遅いと眠くなる!」
と、唯の激しいチェックが入る。
もともとあまり舌の回転がよくなく、しゃべるのが苦手な深海だったので、
誠に、的を射た指摘であった。

深海は、自分の専門の社会科はもちろんだが、他の教科でも、唯は理解力に優れ、
学校で普通に授業を受けていたら、かなり上位にいる生徒だと思っている。

それだけに、こんなところで苦しんでいる唯のことが不憫でならない。



 

この教育センターの教育支援室に通う生徒の中には、
努力して県でも有数の進学校に合格する生徒もいれば、
途中で挫折して、受験できなかったり、志望する公立高校に合格できない生徒もいる。

高校合格が全てではないが、唯が望んでいる以上、
深海は、唯には何としてでも、志望する公立高校に合格してもらいたい。
それが支援員として、いや、教育に携わった人間としての使命だと思っている。

支援員を引き受けた頃の後悔の日々、そして、海外旅行だの甲子園だの・・・

後ろ向きで全くやる気のなかった深海航とは全く別人だ。

 

人間というものは、いくつになっても成長するものなのだ。


続きます

この作品は創作された物語です。
登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。