物語プロバンスのパン屋さんで 24 「ストレス発散」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

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 (物語)プロバンスのパン屋さんで 24

 

この物語は、
友人の心ない言葉と、
無責任な大人の行動で人間不信になり、
不登校になった夢見る中学3年生、竹下唯(たけしたゆい)と、
憧れの定年退職後の楽しいはずの時間が、
1本の電話によりはかなく崩れ去った、
元小学校教師深海航(しんかいわたる)の、
偶然の出会いから始まる激動の半年を綴ったお話である。


 

第5章 プロバンスへの道(12)
「ストレス発散」

 

「竹下さんは、もう落ち着いていましたよ」
臨床心理士の岡田優子は、教育支援室にいる屋敷文夫たち支援員に報告した。
 

「えっ、そうですか・・・」
いつもの穏やかな竹下唯とは違って、情緒不安定だった唯を見た支援員のリーダー
屋敷は、急いで岡田を呼んできたのだった。
しかし、面談室に唯の様子を見に行った岡田の報告は、意外なものだった。


それを聞いた屋敷たち支援員は、
「あんなに不安定だったのに、回復が早い」
と、一様に驚いていた。

「ちゃんと聞いたわけではありませんが、深海先生と楽しそうにお話していました」
岡田も安心したように、
「深海先生と一緒にいれば、自然と落ち着くのかもしれませんね」
と言って、戻って行った。

一時はパタパタしていた支援員たちも、落ち着きを取り戻した。
 


 

そんな面談室の外ことはつゆ知らず、唯はのんびりとスケッチをし、
深海航は、時々おしゃべりしながら唯の様子を見ていた。

「そろそろお昼だ。ヤクルトお姉さんが来るから、あっちに行くね」
「唯さんも、そろそろお昼食べてね」
と言って、深海は面談室を出て教育支援室に戻った。

ヤクルトの販売員が、教育支援室の前に商品をもって毎日昼にやって来る。
深海は、いつもジョアのブルーベリーを買うことにしているのだ。

パソコンで酷使した目には、ブルーベリーがいい!と深海は思っている。
 


 

ジョアを買って教育支援室に入ると、
中には他の支援員たちがいて、リーダーの屋敷が、
「竹下さんはどうだ」
と聞いてきた。深海は、
「もう落ち着いたようで大丈夫です。ただ、実習室での話声とか音で、
 気持ちが不安定になるそうです」
「時間がたてば落ち着くのですが・・・」
と答えた。

「いつも、ニコニコしている竹下さんなのに、今日はびっくり!」
前の担当が言った。
「そうですねえ」
深海の前では、いつもニコニコの唯では決してないが、
唯の名誉のため話を合わせておいた。



 

第3面談室では、唯が、お母さんのつくってくれた弁当を食べながら、
自分の行動を考えていた。

   “深海先生が連れて来てくれるこの面談室は、他に誰もいないからやりやすい。
 いつも使える部屋ではないらしいけど、今日も、深海先生とおしゃべりをしたり、
 窓の外をスケッチしていたら、他のいやなことが頭から離れて、ストレス発散できた感じ。
 深海先生のおかげで、いつもけっこういらいらが回復するけど、
 自分の気持ちを、自分自身でもっと上手にコントロールできたらいいのに・・・”

そうは思っても、高校受験を控えているのに、学校ではなく、こんなところにいることは、
唯にとって、まだ受け入れがたい現実であった。
 
 ”早く高校に行きたい。高校に行って友だちといっぱい楽しみたい”
 ”そして、お母さんたちを安心させたい”

弁当を食べ終え、唯はカバンから古文の教科書と問題集を出した。



続きます

この作品は創作された物語です。
登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。