物語プロバンスのパン屋さんで 15「変調」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

街と空と木と花と虎と、現実と空想のブログです。

 

 (物語)プロバンスのパン屋さんで15

 

この物語は、
友人の心ない言葉と、
無責任な大人の行動で人間不信になり、
不登校になった夢見る中学3年生、竹下唯(たけしたゆい)と、
憧れの定年退職後の楽しい時間のはずが、
1本の電話によりはかなく崩れ去った、
元小学校教師、深海航(しんかいわたる)の、
偶然出会いから始まる、激動の半年を綴ったお話である。


 

第5章 プロバンスへの戦い(3)

 

「変調」

「ここに来て2日目ですが、学校で勉強するより集中できるし、
 とても良い環境なので、成績を上げていけるのではないかな・・・
 と、自信がついてきました」
2日目、竹下唯は活動ファイルに書いた。

うそではない、唯の正直な感想だ。
しかし、唯は感じていた。



 ここで、こうしていつまでいられるだろう。

 学校の支援ルームにも最初はけっこう行けたが、じきに行けなくなった。
 

 でも、センターの先生方はみんな優しいし、無理もさせない。
 学校に行くよりは、心は安定しているようだ。
 分からない勉強も、わかりやすく教えてくれる。
 毎日、頑張って勉強していけば、成績は上がってくるだろう。

 ここに通っていれば、お母さんもお父さんも安心してくれている。
   ここに通っていればいいんだ。



 

唯は、毎日呪文のように自分に言い聞かせた。


ただ、理科をやると、またあの調子のいい理科の支援員がすぐにやってくる。
うるさいので、唯はしばらく理科はやらないことにした。
そうしているうちに、担当の深海の専門が社会科だということ知り、
唯は、「深海先生はあまりうるさくないので、社会科にしよう」と考えた。

深海は、唯が社会科をやる時間が多くなったので、徐々に付き添う時間が増えてきた。
1年生の地理の復習からはじめて、模擬テストの問題などを、熱心に学習した。

とてもまじめな生徒であった。

朝10時頃にやってきて夕方4時まで、昼食も入れて6時間。

 

もし、不登校になっていなかったら、成績上位の生徒なのだろう。

今、こんなところでこうしている唯のことがとても不憫になった。

 

深海は、社会科をやっている時は、時々テレビやタレントの話をあえてしていた。

毎日、頑張って通っている唯であるが、
深海は、唯が少しずつ、勉強に集中できなくなってきている感じがしていたのだ。

 

「この調子だと、長続きしない」

 


続きます


この作品は創作された物語です。
登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。