8 第3章 学校に行きたい(2) 「ここで頑張る」 | 海峡kid.の函館ちゃんちゃんこ物語

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 (物語)プロバンスのパン屋さんで 8

 

この物語は、
友人の心ない言葉と、無責任な大人の行動で人間不信になり、
不登校になった夢見る中学3年生と、
憧れの定年退職後の楽しい時間のはずが、
1本の電話により、はかなく崩れ去った元小学校教師の、
偶然出会いから始まる、激動の半年を綴ったお話である。




第3章 学校に行きたい(2)

「ここで頑張る」
 

竹下唯(たけしたゆい)は中学校3年生となり、担任が以前から勧めていた修学旅行には、
教育センターのカウンセラーの勧めもあり、何とか行くことができた。
久しぶりに友達と一緒に行動し、唯はそれなりに楽しいと思った。

でも、自分のことを良く思っていない人間がいることも感じていた。
そんな生徒たちの視線が怖かった。
当然、修学旅行から帰ってからも、そのまま登校とはいかなかった。



3年生の夏休み。

もう他の生徒たちは、高校受験の志望校を決めている。
唯も、高校には行きたいとは思っている。

でも、授業に出ていない、勉強もろくにしていない自分が行けるのだろうか。
もう、いつも自習だけの学校の「支援教室」には行く気にはならない。

「こうしてはいられない」

「よし、夏休みが終わったら、教室に行って勉強しよう」

唯は強い決意で、夏休みの宿題に取りかかった。

 

しかし、お盆が過ぎ、夏休みもあと一週間となったある日、

唯は、また自分の心の変化に気付いた。

 

宿題はもうやる気にならなかった。

担任の教師が、様子を見に家庭訪問に来ても、会う気にはならなかった。

 

そして、夏休みが終わった。

学校が始まる日の朝、唯は起きることができなかった。

時計を見るのが怖かった。

母親も様子を見に来たが、無理には起こさなかった。

 

唯は自分が情けなかった。


夏休みが終わりに三日たった。母親が、
「唯、もう一度、センターに行ってみようか」
と、唯に言ってきた。

 

唯もずっと、「ここままでは高校に行けない。何とかしなくちゃ」と思っていた。

教育センターには、
「いつもカウンセリングをしてくれているカウンセラーの岡田さんもいるし、
 もう少し、きちんと勉強もしたいし・・・」

 

カウンセラーの岡田さんは、小さい子どものお母さんだが、やさしいお姉さんで、

家族以外では、唯が信頼できる唯一の人だ。
唯は、少し頑張ってみる気持ちになった。



次の週、唯は母親の車に乗って教育センターに行った。

 

ちょうどその日はカウンセリングの日で、唯は岡田さんに、

「ここの教育支援室に通うことにする」

と宣言した。岡田さんはとても喜んで、

「応援するからね」

と言って、手を握ってくれた。

唯はますます元気が出てきた。

 

カウンセリングが終わって、母親と一緒に「教育支援室」に行った。
「教育支援室」に入るのは久しぶりであった。
前担当だった女の先生と少し面談して、母親は帰って行った。

唯は、女の先生と一緒に教育支援室の「活動室」に行って、席に座った。

「活動室」には、他に3人生徒がいて、勉強したり、本を読んだりしていた。
唯は、以前この教室の雰囲気が嫌いだったことを思い出した。
でも、
「ここで、頑張らなくては」
と、前の思い出を振り切り、学校から渡されている夏休みの課題をカバンから出した。



しばらくすると、前の担当の女の先生とともに、男の先生が来て、

「おはようございます。深海と言います。これからよろしく」
と挨拶をした。

唯は、「今度は男の先生か」と思い、ちょっとがっかりしたが、

「おはようございます。竹下唯(たけしたゆい)です。よろしくお願いします」
と、一応にっこり笑って挨拶を返した。

 

・・・ここで、頑張る。

 

 

続きます



この作品は創作された物語です。
登場する人物、団体、名称等は、実在のものとは一切関係はありません。
また、物語の中の写真はすべてイメージです。