婦人科便り309 誰でも最初はいちねんせい。 | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ウェルカムですが
最近ご質問内容が
すでに記事になっていることが多くなってきました。
お手数ですが、まずはブログ内をご検索ください。

ネタ提供ありがとうございます。

 

誰でも最初はいちねんせい、であるため

どんな大御所であっても

「いっちばんさいしょのしゅじゅつ」ってのが

存在する。

 

*************

Q.

お医者さんが一人前のお医者さんになる過程での、

最初の手術について教えてください。


婦人科領域では、

どのような手術がターゲットになりますか?

あまりに「へたっぴ」だった場合は、

途中交代とかもあるのですか?

初めての手術前には、

人形などでシュミレーションしたりするのですか?

初めての手術はやはりちょっと危険ですか?

それとも、指導医がばっちり監視しているので、

案外安全ですか?

(逆に、数年たった慣れたころが危ないのかな?)

 

A.

開腹手術だと「予定の」帝王切開

腹腔鏡手術だと卵巣嚢腫か、場合によって子宮外妊娠

腟式はちと複雑であるため

ややもすれば「一度もしたことがない」

ベテランも存在する。

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絶望的な話ではあるが

手術がへたっぴな人は

徹頭徹尾へたっぴで、

上手な人は最初から上手です、アーメン。

 

新しく研修医制度が変わり

私たちの時代と違って

ある程度の科を2年かけてじゅんぐりに経験してのち

自分の科を選択できるようになったため

圧倒的に見込みがない、オーマイガー

という人が少なくなったようには思う。

 

なんでそんなところ切った?だの

なんでそんなふうになった?だの

やらかす人は永遠にやらかし続ける。

ここでごく一般の常識人は

「・・・おれ、わりとへたっぴ?」

と気が付くものであるが、

さらに絶望的なことに

世の中には

 

下手の横好き(下手だからこそ手術が好き)

 

という奇特な人も一定数、存在する。

悲劇なのはそういう、

手術をしたがるがへたっぴの自覚がないヤツにあたった

患者さんだと思う。

それでも本人がやりたがると、

医者ってのは手術できちゃうからねー。注意。

 

ちょっと話がそれた。

 

手術の修練は、こと腹腔鏡手術に至っては

鉗子を扱うドライボックスなる、練習キットが存在し

それを自作、もしくは既製品を購入の上

日々手技の訓練をし、鍛錬を重ねる。

剣道家が素振りをし

野球選手が千本ノックを受けるのとあまり変わらん。

 

だが、ここだけの話、

開腹術、腟式手術は

「師匠の技を横目で盗む」ことで身に着ける、

 

オン・ザ・ジョブ 

トレーニング

 

であることが多いんじゃないかと思う。

私の師匠はよく

「患者さんの体で練習すんな!」と言っていたが

ほんとうにその通りで

最初は指導医が助手につき、懇切丁寧に指導。

どっちが執刀医だかわからない

二人羽織(ににんばおり)の状態で

手術はごく安全に、型通り進んでいく。


そうやって誰もが最初はいちねんせい、を過ごす。

 

私の場合はちょっと特殊で

いっちばん初めの執刀手術は腟式手術だった。

おおよそ帝王切開が第一件目になることが多いんで、

これを皆に言うと驚かれるのであるが

開腹術は研修医の皆がこぞってやりたがり

指導医も男尊女卑、「男性医師から」指導したがるので

手術に入る機会そのものを

女医が許されてなかった時代があったんである。

はるか石器時代である。

 

後で聞くところによると師匠の、

「じーっと横から熱心に見てるから

 できると思ったんだよねー」

という、全く根拠のない洞察のみで私は

「ん、やってみろ」とメスを渡されたらしい。

今考えるとちょー怖いが、ほんとに見様見真似で

時間は師匠の倍くらいかかったものの

なんとかやってのけ、患者さんは無事だった。

卒後3年目くらいでしたかねー

 

よって、執刀デビューは私はだいぶ遅いんざます。

 

そこで「私、できません」言うと

しばらく執刀の機会がなくなるので

いつでもスタンバイ、

できるようにしておくのは普通

おい、聞いてっか、研修医ども。

 

 

一方、腹腔鏡に至っては、おおよそ2年間くらい

助手しかさせられてませんでした。白目。

ひたすら助手、自主練、助手、

自主練、助手、自主練・・・で

うっかり腐りかけたころ、

やっぱり私の師匠が

いきなり手術室に入ってきて

「・・・ん、今日はおまえ、やってみろ」

と鉗子を渡された。

それまでは担当医であっても

ちょこっとしか手術をさせてもらえず

兄弟子、姉弟子が鉗子やメスを取り上げてましたので

最初から最後まで通して執刀するのは

それが初めてでした。

 

そこに至るまでに、

実に1000例の助手が終わってたYO

すぽこーん。

 

外科系の科では一人前に執刀できないと

ほぼ人間扱いされないため、

助手ばかりでは将来が見通せずツラかったが

今、思い返すと

一段も踏み外せない、

大事な大事なステップだったように思う。

 

助手だからと気合を抜かさず

自分だったらどう動かすか、をシュミレーションして

腐らず、ひるまず、ひがまず

ひたすらトラブルシューティングを

覚えていけた若い日の自分に乾杯!

 


だから私は私のことが大好きなんですYO 笑

 

 

今はあんな真似、ようできんなーーーー

アラフィフだから! 20歳だから!