婦人科便り280 そのLSCに愛はあるんか | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ウェルカムですが
最近ご質問内容が
すでに記事になっていることが多くなってきました。
お手数ですが、まずはブログ内をご検索ください。

ネタ提供、いつもありがとうございます。

 

ちょっと今日は言いたいことある。

 

ややこしい話なので、興味のない人は

そっぽむいてはなほじしててOK牧場。

 

腹腔鏡下腟仙骨固定術、人呼んでLSC

Laparoscopic sacrocolpopexy)が保険収載され

ここ日本でも全国の

「子宮が落ちてきて困っているマダム」

に適応されている。

この手術は、みかんのネットみたいな

人工物(メッシュ)

を腟や子宮頸部に縫い付けて引き上げ、

仙骨の前面にそのネットの端を

縫い付けるというもので

ぐっと臓器を引き上げるため

腟が長く保たれる、という利点がある。

ひいては「上がった!すっきりした!!」

という爽快感が

ご本人にも執刀医にも訪れるため、

きちんと予測通りうまくいけば

理想的な手術、と言える。

 

駄菓子菓子かかし

 

うまい話には裏がある、という格言通り

この美しく、一見何もかもを解決しそうな手術にも

知っておかねばならぬ横顔を持つ。

 

入れる人工物、メッシュ

こいつが感染を起こしたり、痛みの原因になったり

場合によって腸閉塞の原因になったりと

人間の組織ではないが故の

様々な合併症の可能性がある、

手ごわい相手なんである。

 

私もちょっとだけこの手術に心得があり

比較的お若くて(比較的だよ)体力がありそうで

これからもムッシュと

仲良くする予定がありそうな(失礼)

自分の患者さんに適宜説明し、熱心に勧誘しているが

上記のことを説明し、納得の上

手術をさせていただけるまでめっちゃ一苦労。

しょーーーーーじきに言うと、

ここ1年くらい目下、勧誘活動全敗中。

特にメッシュが原因で背骨(正しくは仙骨ね) に感染を起こして

化膿性脊椎炎を起こし、

下手したら死ぬかもしれません、まで話すと

もう老い先短い身の上でございますので

遠慮させていただきます、

的なお申し出が後を絶たない。白目

 

えー

性交渉がこれからもできるよー、とか

爽快感が(きっと)あるよー、とか抵抗を試みるものの

せんせ、私もうちょっと畑仕事がしたいんざます。

あたくしも、あと数年でございましょ?

とか言われると強くは勧誘もできず。

結局伸びた腟をきれいにトリミングして(言い方)

腟を閉じちゃう全腟閉鎖をご案内~

1名様で~す。になりがち。

ガーデニングに負けるLSCおよび性交渉。

 

おかげさまで腟式手術の腕前に

さらに磨きがかかってしまい、

すでに黒光りの境地であるが

 

全国のLSC執刀医に問いたい。

 

おめえら、ちゃんと

手術説明してっか??

 

どっかのブログで

ご本人の腟を勝手に閉じるのはいかがなものか。

的一見フェミニストだが、混じり気なく

ピュアに男性目線だろうおめぇ、的発言を見かけて

うっかり鼻血が出そうになったが

そもそも手術に「勝手」は100%ないし

おめえの方がご本人に

「腟、まだ要りますか?」とお尋ねはしたのか。

ちなみに再発率はやや高め(1%くらい)だが

短くはなるものの腟を閉じずに

形成するだけの手術もあり

まだムッシュと交信があります!

のマダムはそちらも選べる。

 

腟に用事があるかどうかは年齢には関係なく

60代でもイラン、

おとーちゃんには私が言って聞かせる!

言うサムライマダムもいれば

80代でも新しくできたぼーいふれんどのために

必要です言う乙女マダムもおるので

執刀医が要る、要らないを「勝手に」

判断する範疇ではないと個人的には思う。

 

いつだったか、ご主人が

すでに鬼籍に入ってしまわれていたため

ナチュラルに腟要らない風で説明していたら

老マダムに

「せんせ、あたくし、

 定期的に宇宙との交信がございますのよ」

(えっ、誰と!!!)

と優しくたしなめられたことある。

失礼千万、平にご容赦。

 

愛のある手術をするには

マダムがご自分で判断できるまで

そのありとあらゆる材料をまずは

提供することが必要なのではないか?

これくらいの手術よかろ、とか

この手術がいいとされているから、とか

は、元より許されることではないが

驚愕することに

この手術しか自分は提供できないから、

というのが

真の理由になっている事例も

散見される昨今の傾向はいかがなものか。

 

これぞバ●の

いっちょ覚え。

(言っちゃったー)

 

がんの治療と違って極端に言えば

骨盤臓器脱は再発してもまた出てくるだけで

命に別状は生じない。

また腟を縫い縮めることは何度でも可能。

そこに別状を発生させる可能性を

秘めるメッシュを仕込むことは

ご本人の深い理解と心からの納得

そして何か重大な合併症が起きても

決して執刀医を恨まず自分で選んだんだもの、との

強靭な精神力が必要とされるのではないか?

 

その点を踏まえたうえで

この美しく理想的なLSCは

存在するのではないかと

苦言を呈しておく。

 

おいこらそこのおめえ!

いい加減、その偏った考えを改めろ。

腟なんて要らねえ、安全でよろ。

と思っているマダムの気持ちを無視するな。

まだまだ現役!のマダムだけ懇切丁寧にご案内しろ。

 

いい手術だけどね。うん。

何も説明せぬままこれをするのは罪だよ、

そこの君。


わかってやってんのかねー


ふんかふんか