婦人科便り254 経過良好であってほしい | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ありがとうございます。

 

人間だものbyみつを

うっかりミスや見逃しもあるだろう。

ギョーカイでは患者さんが

無事であってほしいと願うあまり

ついつい小さな違和感や異常を見逃してしまうことを

「正常バイアス」と呼んで

ちゃんと気配りせんか、と周知徹底している

・・・ようである。歯切れ悪くてスマソ

 

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Q.

退院後に(偶発)合併症がひどくなり、

再入院するケースは珍しくないのでしょうか?

 

A.

残念ながら珍しくないです。

ありますよ。

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病気の時くらい、手厚く優しくしてほしいと願うのは

何も一般小市民だけではなく

全世界的に共通認識であると思う。

 

上記のご質問を下さったマダムは

退院していいよ、と主治医から言われたにも関わらず

その退院日に自力で歩けないくらい

足が腫れていたとのこと。

「手厚く、優しく」からは外れてしまうので

ほんとーーーーーーのほんとうのところ

一発何かの検査や確認をしてほしかった、とは思う。

 

駄菓子菓子

 

問題は日本の保険制度、である。

 

日本は国民皆保険である。

日々のお給料からいざというときのための

お金が積み立てられており

病気になった国民には

1~3割の負担で十分な医療が施される、

ありがたいシステムである。

世帯年収によっては支払うお金も些少でいいし

いわゆる専門医にもアクセスし放題だし、

救急車は無料だし

世界に誇れる優れた仕組みであるが、

だからこその穴もある。

 

医療が皆の出し合ったお金で賄われている以上

個人の主張や都合があまり加味されない、

という側面があるのだ。

全てにおいてベルトコンベアー

 

つまり、「医療の財政上」

順調に経過する以外の何か突発的な事柄が起きた時に

加えて手当てをしていくのが難しいのです。

特別扱いにするのが難しいというか。

よって、担当医は患者さんのためにも医療経済的にも

「術後経過良好であってほしい」とお祈りしています。

祈りすぎて、ついつい

違和感や正常経過からはみ出す何かを

無視し、「正常に違いない」

と退院させてしまうというね・・・

 

あるある。

悲しいけど、あるある。

 

ただ、この「正常からはみ出した」経過になったとき

ほんとうは担当医の真の価値が分かる場面になる。

患者さんが健やかで考え得る限り

まっとうな経過を辿っているうちは

どんなポンコツ医者でも対応できるだろう。

ところが、いざ、緊急事態になったとき

すべての経験と知識と誠実さ、時に高潔さや素直さ

果ては生き方まで

総動員しなくてはならない事態に立たされた時

その担当医の真の技量が問われる。

 

問われる(ホラー)

 

悲しいかな、30年ほどのキャリアの中で

私も恐ろしい合併症に遭遇したことがある。

誰が許しても自分が許せないし、

できるならひた隠しにし、

なかったことにしたいと思ったことも

一度や二度ではないです。正直。

 

でもね、その事実から逃げないでいれば、

救われることもあります。

 

私が術後の合併症を起こしてしまったマダムに

ぎゅっと手を握られて

「先生は頑張ってる、大丈夫

 先生のせいじゃない。先生のこと、大好きです」と

逆に慰められたことがあるんだよ、恥ずかしながら。

マダムに息も絶え絶えになりながら

これを言われてみろ~

がんばる!っていう気持ちにならんやつ、おらんやろ。そりゃもう、きょーれつよ。

 

主治医はみんな、大なり小なり

マダムの経過良好を祈っております。

それが少しばかり見当違いで

間違った方向にいっていたとしても

終わりよければすべてよし

(ゆるして)

この精神で頑張っておりますので

ちいとばかし、大目にみていただければ・・・

 

だめかなー

 

くすん