婦人科便り194 子宮摘出!開腹なのか腹腔鏡なのか問題 | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ウェルカムですが
最近ご質問内容が
すでに記事になっていることが多くなってきました。
お手数ですが、まずはブログ内をご検索ください。

さて通常運転に戻る。

 

週刊誌の袋とじ的楽しみも

たまにはあってよかろう。

ちっともえっちでも破廉恥でもなかったため

な~んだ思ったあなた。あなたは正しい。

ま、一回あめんばになっておけば

また限定記事が出たとき便利よ。

たぶん。ごめんねお手間で。

 

さて、一人の天才が子宮摘出を

腹腔鏡でしてみせてから50年ほどかと思う。

実はそんなに歴史があるわけじゃないことにお気づきであろうか。

漢方薬なんか、中国3000年の歴史が誇るYO

どう考えても分が悪いがどうだろう。

それでもなお開腹術に比べると術後が圧倒的に楽だし

後々の創の目立たなさもピカイチ!であるため

腹腔鏡で「安全に」「3時間以内で」できるんだったら

こちらを選択すべき、と私は思う。

 

私が駆け出しのころはなかった苦悩ではあるが笑

開腹にすべきなのか腹腔鏡でお願いするところなのか

判断に困るのは、当然困ると思うー

主治医ですら迷いのある点ですもの。

しろうとの奥様が迷うのは自然なこと。

個々の医者でもどちらにするか、

ぶれるところではある。

最終的には主治医にお尋ねください、

になるかとは思うが

 

要は

 

1) ブツがでかすぎる

2) 悪性

 

この二つがキーワードです。

 

オタクの会バイブルでの該当箇所を

ざっくりお伝えすると

(注:産科婦人科内視鏡学会ガイドライン)

子宮が推定500gを超えるとき

と、

悪性で、かつ腹腔鏡では

「安全に」取れないと判断されるとき

は、できるだけ腹を開けるように、

と忠告してある。

 

駄菓子菓子

 

「執刀医の力量にもよる」とも書いてあって

子宮が推定で3キロくらいあっても

悪性で比較的病気が進行していても

できる!と思えばしていい。

つまり、「医師の裁量権」を認めている。

ここらへんが市場を混乱させており

我こそは!という医者の挑戦の心と

腹腔鏡でしてほしい、「楽そうだから」という

マダムの気持ちが合わさった結果、

一定の法則に乱れが出ている。

 

ただあんま、他人の体で

エベレスト北壁を登ろうとするのは

いかがなものかと思うので

見分けるための、ちょっとした知恵を伝授しておく。


担当医に確認する事項として

1) その手術を腹腔鏡でした場合、

   何時間くらいかかりますか?

2) 悪性だと思う割合は何%くらいだと思いますか?

この二つを聞いてほしい。

それだけで悲劇的な挑戦を受け付けずに済むと思う。

 

子宮筋腫などの悪性ではない病気の場合

腹腔鏡下子宮全摘術の平均時間は2時間半

特に癒着がなく、

お作法通りに進んでこれくらいの時間がかかり

それ以上でもそれ以下でも

なんらかの「いつもと違うこと」があるはず。

ちょっとした癒着や

マダム固有の困りごとがあったとしても

おおよそ3時間以内に終わるんである。

 

オタクの会で時に8時間かけて子宮を取りました、的な

若気の至りを地でいくような発表を時折見かけるが

腹腔鏡手術では視野を確保するため

内診台の上に載り、頭を15度ほど下げる。

(こうすると腸管が肝臓の方へ逃げてくれる)

いわゆる頭低位の状態でマダムは術中を過ごす。

ちょうど壁向きスタイルの

逆立ちをしているのと感覚的には似ているため

この状態で8時間、

耐えることができるかどうかを想像してみてほしい。

…3時間でも無理じゃね?と思ったあなた

そうなんです。無理なんです。

わたしも無理。きっと無理。

麻酔がかかっているからこそ

やり遂げることが可能なこの無理難題を

「時間がかかって申し訳ないな」

この気持ちが足りないと

そうだ、8時間かけて子宮を取ろう!

なーんて思うんだなきっと。

ご苦労様です。

でも、8時間も壁向きスタイルの逆立ち。どうよ?

ちょっと口から血を吐きそうじゃない?

 

次に悪性かどうかですが

術前に決まらない病名として

子宮筋腫にその様相がよく似た「肉腫」がありまして。

これは画像でも血液検査でもおおいに迷うところで

最終的には顕微鏡の検査でしか

確定しない領域ではあります。

 

ただ、日本では骨盤MRI検査を

事前にしておく病院が多く

どれくらいの確率で肉腫なのかな、という印象は

担当医がすでにお待ちであると思うので

その印象をしょーじきに伝えてもらうと

判断材料になります。当たるかどうかは別として。

 

ただ、肉腫をつよ~く疑う場合は

万難を排して手術の日程を直近で組もう、

とするはずで

相手が指定してきた術日が

4か月も5か月も先ならそれだけで

「・・・肉腫やない、思てるんやな」

と推察できます。そんな空気もうまいこと読もう。

 

ちなみに我々専門家が子宮筋腫や!

と思って手術した場合で

やっぱり肉腫でした、となる確率は

500分の1くらい。

これをMRIでさらに正診率を上げますんで

もう少しびっくり仰天、ほいさっさ!は

ほんと~うに少なくなるはず。

 

そういう事柄を胸に秘め、主治医に相談してみそ。

案外、何かの虫の知らせ

(おんなの勘?)みたいなのが働いて

マダムに開腹術を勧めているのやもしれん。

(私はたまにあるぞ←おんなの勘)

腹を割って話してみればええと思います。

そして、

ぼうや、じょうちゃんの本音を聞けるように

人間力を日々鍛えておくのがマダムのたしなみ。

乙女のように恥じらってる場合やない。

男の一人、小娘の一人は

意のままに操れるくらい

鍛錬しておくことをオススメします。ハイ。