婦人科便り189 困ったムッシュ① | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

小児科が大変なのは、

かわゆくいじらしい患児だけではなく

気を揉むあまり頭がおかしくなってしまった

おかーさんたちと付き合わねばならないからだが

これが産婦人科になると

困ったムッシュに付き合わねばならないため

その大変さはもっと狡猾になる。

たいていはマダムが

ムッシュの首根っこを押さえこんでおり

くどくど言いかけるムッシュを

「おとーさん、うるさい。

 あっち行ってて」と

診察室の外へ出してくれるが

マダムご本人が大変な目に遭っているとき

どうしてもムッシュと対峙せねばならず、

時に困惑する。

 

先日も上梓した、

マダムの子宮を

心から惜しむムッシュもそうであるが

自分のベターハーフを思うあまり

取り散らかるムッシュは果てしなく、星の数ほど多い。

 

まあ、マダムにとことん無関心で

仕事「だけ」していたら

人生がすべて赦されると思っている

勘違い野郎より100万倍マシだし

そんな奴、なんなら命を賭けている「はずの」

仕事も中途半端でたいしたことなかろう、

と睨んでいるが(失敬)

あまりにもマダムへの思慕が募りすぎるのは

もはやネタ提供である、としか思わない。

 

いつだったか、

子宮から大出血していますと

飛び込んできたマダムがいた。

そのこと自体は日常ちゃめし事なので、

あまり記憶に残らない程度のイベントであるが

精査の結果、どうも子宮体がんじゃねえかとなった。

最終的には病理検査に出してみないと分からないが

なにかしらの悪性を疑う所見であった。

がんの手術は適宜、高次病院へご案内しているため

診察室の前に待機していたムッシュを招き入れ

おもむろに

「子宮がんの可能性があるため

 治療ができる病院へご紹介します」

(注:あくまで可能性

と告げたとたん

 

「・・・がん、がんなんですか?

 家内が・・・がん・・・

 そんな・・・・・おうおうおうおうおう

いっきなり、号泣&咆哮し始めた。

ねえねえ、発情期のあざらしなの?

あざらしなの??

びっくりしてご本人のことを

一瞬忘れかけたが私もプロ。

かろうじて思い出し、

マダムご本人のご尊顔を拝見したところ

私と同じように、

口をぽっかーんと開けた

間抜けな顔をしておりましたとさ。

ちゃんちゃん。あーびっくりしたー

 

後日、高次医療機関で治療が無事、終わって

わざわざご挨拶にマダムが来てくださったとき

「いつもはああではないんですが・・・

 私には関心がない、くらいに思ってました・・・

 ご迷惑をおかけしました」

と、言いながらもちょっと嬉しそうであった。

んで、ちょっとしたお菓子くれた。

ありがとう。もらっておきます。びっくり賃。

 

心からの心配と労わりは

病床の身にはありがたいことでは、ある。

 

駄菓子菓子

 

当のご本人より先に発情、もとい号泣しちゃうのは

いかがか、と第三者でしごく冷静な私は思う。

ま、こればっかりは犬も食わない、ってことで。

 

マジで面白いんで、ムッシュ連れてきてください。

趣味は人間観察。