婦人科便り185 困ったドクター② | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ウェルカムですが
最近ご質問内容が
すでに記事になっていることが多くなってきました。
お手数ですが、まずはブログ内をご検索ください。

一口に医者といっても

それに至るまでの人生も様々なら

その後の人生も様々。

医学部に入学して医師国家試験を受ける

これが共通なだけなんであって

その前もそのあともいろいろいろいろです。

 

何度も口を酸っぱくして言うが

エアコンの修理をしに来た技術者に

姑との確執をうっかり相談しないように

医者にも人生のいったり来たりを

相談はしない方が賢明である。

もちろん、どこのギョーカイでも

長く一つの道を究めてくると

それなりの人生哲学をお持ちになり

ある意味、達観という名の

鋼メンタルを獲得しているため

参考程度にはなるかもしれないが

所詮、参考程度レベルなのである。

 

さて、医者も10年を超えてくると

後輩の指導も業務内容に加わってくるため

全国様々な場所で

おおらかに育った卵たちと触れ合う場面も多くなる。

だいたい、医者になんなんとする輩は

「うちの自慢の息子もしくは

 娘もしくは本人指定の性別の子」であるため

果てしなく自己評価が高く、

自由な人が多数を占める。

つまり、あんま、

怒られたことがない出来のいい子!なのだよ。

たまに私のように何を間違ったか

他のカーストから紛れ込んできた子も

いるにはいるが、少数派。

 

大学病院時代に印象深かった男子は

大きな産婦人科医院の跡取り息子で

トトロのような体格を持ち

限りなく優しく、のんびりとした性格の子であった。

体重約0.1トン。

100キロを超えるときちんと体重を計るためには

二つの体重計を用意し、両方に足を乗せて

二つの数字の合算をせねばならず、

それを理由に体重の数字の前に

「約」が付いていた子である。

 

医者になると、受け持ち患者の

「サマリ(=退院時要約)」を記述する、という

最初の難関にぶち当たる。

あれは「一人の患者さんに対する科学的な記述」

であるため

個人の感情を入れて書くような

「あさがおの観察日記」ではない。

・・・んだが、最初の1年くらいは深く誤解し、

自分が苦労したことまでうっかり書いてしまい

指導医の失笑を浴びるのが常。

 

ご多分に漏れず、このトトロ少年が

書くサマリがほんとうに

 

徒然草itself(=そのもの)

 

であった。

科学的な記述は、時系列がきちんとしていないとだめで

過去から現在にかけて順番に記入し、

最後に「今後の見通し」として

治療方針をちょこっと書く、となっている。

だが、彼は

接続詞「・・・なぜかというと」

「とはいえ」「思うに」を駆使し

過去と現実を右往左往する、

大作を毎回作り上げてきていた。

おまえはタイムリーパーか?と叱咤し、

これを赤ペン先生よろしく一から

丁寧に仕上げるのであるが

真っ赤になって本人の芸術が木っ端みじんになるため

最初から私が書けば早いのでは

・・・と思うくらいひどかった。

 

トトロ少年はかなりトトロであったため、

周囲の人から愛され、

特段患者と決闘などしなかったので

その点は楽であったが

トトロであるがゆえに

周りの研修医からパシリ扱いされることも多く

なかなかに目が離せなかった。

トトロな彼はすべてを卓越し、

もはや人間を超えているため

育ちの良さも相まって、

なんでも安請け合い的に引き受けてしまう。

 

ある日の夕方

院内にあるコンビニで弁当を買いあさる彼を見かけた。

手元を見ると、両手に4個ずつ、計8個の

夕方のセールで値引きされた弁当を

ビニル袋に入れて下げており

けんかっ早い私は

「すわ、とうとう弁当の調達係にされやがったか!」

と瞬間湯沸かし器になりかけた。 

 

・・・が、彼はトトロなりに慌てて

 

せんせ~い、これ、

全部自分で食べま~す

ちゃんちゃん。

 

トトロになるにはちゃんと理由があります。

 

そんな彼も今は大きな産婦人科医院の

院長先生になっておられる。

きっと今もトトロでいると思うが、どうだろう。

弁当8個食べて元気でいてほしいと思います。