Nothing was written. (運命などない) | 婦人科備忘録

婦人科備忘録

ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ウェルカムですが
最近ご質問内容が
すでに記事になっていることが多くなってきました。
お手数ですが、まずはブログ内をご検索ください。

急ぐと思うので、

先に記事にしています。

読んでくださっているといいなと

思いながら書いています。

 

****************

膀胱癌見つかり、抗がん剤治療後、膀胱癌と卵巣取り、

ストマーになります、怖くて、怖くて、不安です。

****************

 

うん。

辛いね。

きっと誰にも言えずに

夜、お一人で耐えてらっしゃるんだと想像しています。

周りの人が大事な人たちだからこそ

言えずにいるよね、ツライとか。言えるはずない。

 

3年ほど前、泌尿器科の先生から

膀胱がんの患者さんの相談を受けたことがある。

膀胱がんの再発を繰り返している方で

まだ20代後半

初期の頃なら膀胱がんは

膀胱鏡で見ながら

電気メスで削るだけでも良くなるんだけど

それまでに膀胱を削りすぎて膀胱の壁が薄くなり

これ以上は膀胱鏡ではできない、と判断されていた。

 

担当の泌尿器科のセンセは女性で

通常、膀胱全摘は子宮も

一緒に摘出するのが標準術式なんだけど

相手は若い女性

なんとか子宮を残せませんか、

一緒に手術に入ってくださいとの依頼だった。

その時の骨盤MRIの画像を今でも覚えているんだけど

確かに膀胱にはがんができていて

子宮の壁にも及ぼうとしていた。

でも、その時点なら子宮は確実に残せそうだったので

大丈夫ですよとお返事して、

手術の日程が調整されるのを待っておりました。

その手術でストマは作られるだろうけれど

必ず若い彼女の人生は続いていくはず、だった。

 

でも、いつまで経っても彼女の手術日は決定されなかった。

 

泌尿器科のセンセに声をかけて聞いたら

「逃げた」と。

膀胱を全部取って、膀胱を他に作るのがやだと

もっと削ってくれるところを探すと

治療を拒否したらしい。

 

私たち医者は

自宅までおしかけて

治療しなさいよ!と詰め寄ることはできない。

患者さんが依頼してくれて初めて

治療をすることができる。

彼女が繋いだ手を離したら

繋ぐ手をくれなかったら

もう手を握ってあげることもできない。

 

それから私は忙しさにかまけて

その患者さんのことをすっかり忘れていたんだけど

2年後

彼女は全身に膀胱がんが転移した状況で

緊急搬送されてきた。

もっと削ってくれるところを探すと言っていたのに

すべてを拒否して「普通に仕事をしていた」らしい。

嫌なもの、臭いものを見ないようにしてぐいぐい蓋をしていても

いつか必ずそれは雪崩のように襲ってくる。

 

彼女のそれは、もはや手の施しようがなかった。

 

人間はいつか必ず死ぬ。

私も死ぬし

きっとあなたも死ぬ。

それがいつかはわからない。

明日かもしれないし、もっと先かもしれない。

 

ただ一つ私が思うのは

 

永遠に生き続けることができない以上

惨めに死なないように尽くすことは

最低限かつ最大限の礼儀である

 

ということ。

 

縁あってこの世界に生まれて

ほんとうに少ない確率で出会った人たちに対して

礼儀を尽くすこと、それは今生きる人の義務だ

 

ということ。

 

Nothing was written. (運命などない)

         ーアラビアのロレンスより

 

辛いことがあったとき

宿命だとか運命だとか悲運だとか人は言うでしょう。

 

ちがう

Nothing was written. (運命などない)

あなたの物語のこの先は

白くまだ空白で

自分で書いていくしかない。

前もって書いてあるわけじゃない。

終わりも決まってない。

逆に、今から

すごく劇的で

ロマンティックで

美しい物語にしていくことも

 

できる。

できるよ。できるはずよ。

 

 

明日世界が終わるとも

今日、私は

りんごの木を植える。

 

一緒に植えよう。一本のりんごの木を。

 

まるぽこうさぎ。拝