閑話休題:医師国家試験を受ける皆さんへ | 婦人科備忘録

婦人科備忘録

ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ウェルカムですが
最近ご質問内容が
すでに記事になっていることが多くなってきました。
お手数ですが、まずはブログ内をご検索ください。

さて、明日はいよいよ

医師国家試験が開催される。

どれくらいたまごが読んでくれているか知らないが

応援メッセージを送りたいと思います。

 

なぜ医者になるのか?

 

という質問に明確な回答がある医師は少ないと思う。

 

人は何もドラマチックな理由がなくても

実に即物的な理由でもちゃんと道を選べる。

医者になったら給料や身分が保証されると信じて

医者になることを志したものもいるだろうし

親が医者だから、後継ぎだからと選ぶ人もいるだろう。

単純に白衣を着た姿がかっこいいから、も「あり」だと思う。

私の同級生なんか小首をかしげて

「・・・ん?偏差値が合ったから?」

とか抜かしていたし

ついうっかり医学部に入っちゃったYO、

な~んて人もいるだろう。

 

医者になる理由は実はどうでもい~んである。

高い志があれば幸いだけど

なくてもちゃんと医者にはなれる。

ふつーのことをふつーにこなせれば

ある程度お役に立てるセンセになるだろう。

 

が、しかし

どんなに俗な理由で医者になろうとも

きっとあなたたちは大きな倫理の壁にぶつかる。

 

助けたいのに助けられなかったり

受け入れられない理不尽なことや

神様が意外に不親切で、しかも悪平等であることも

健康や命にもお金がかかる現実も

あなたたちの行く手に立ちふさがるだろう。

もしかしたら今まで触れたことのない、

この国の闇を覗くこともあるかもしれない。

 

他の職業と同じように

辞めたい、つらいと思うことも

きっときっとあると思う。

セクハラパワハラ上司も

ずるい先輩や同僚も

性格の悪い患者も

仕事をしないで邪魔してばかりのコメディカルも

一定数、この世には存在する。

人間だものbyみつを。仕方ない。

 

でもでも

世のため人のため医者になる!

目指せブラックジャック!

な~んて強い意志がないあなたが

そんな理不尽に負けずに医者であろうとする理由にも

きっと出会えると保証する。

 

私が自分が医者であると痛烈に自覚したのは

実は医者になって1年目の終わりくらいだった。

産婦人科の医者は会陰縫合が

ある程度できるようになったら

お産のバイトに駆り出されることになっていたので

その日は「初めての産直(分娩当直)」だった。

お産ですよ~と呼ばれて、内診したら

先進部が頭じゃなくて、

むっちりしたおちりだったんですよ。

つまり骨盤位ね。

 

それまで頭位の分娩しか取り上げたことがなくて

めっちゃ動揺しちゃってですね

緊張のあまり半分べそかいてたら

一緒についてくれていた

ベテランのおばちゃん助産師さんが

「せんせ、しっかりして!

 今、この病院には先生しか医者がおらんけん!」

って一喝したの。

 

はっとしちゃったね。

 

そうか、ここで自分は唯一の司令塔で

誰かの命をはっきり預かってんだ!!って。

 

分娩台の後ろの古い木机の上に

「エッセンシャル産科学」という教科書の

骨盤位の分娩介助というページを開けて

それを見ながらイメージトレーニングして

さっき電話で呼んだ、指導医のせんせ、

はよこーーーいとか念じながら

取り上げましたよ

生まれて初めての逆子ちゃんを・・・

 

ベテランの助産師さんが、

「せんせ、思いっきり引っ張って~

 いくよ~~~はい、気合いれて~~今引く!

 力いっぱい!!」

無我夢中ですよ、こっちはね。

力いっぱい引く、とか無理難題もあったもんじゃない

運よく赤ちゃんもお母さんも無事で

指導医はあとから大丈夫だった~?とか

間抜けな感じでやってきましたけど

そりゃもう、大変で、強烈で、

しかも幸福な経験でした。

あの日、命を預けてくれたお母さんも

すごく不安だったと思う。

今考えると無茶苦茶な医療で、

許せない!とすら、思いますけどね。

 

遠回りかなと思った道が、実は一番の近道で

外せない梯子の一段だったってことは

それからずっと繰り返しやってきました。

 

でも想像してみて。

 

誰かのお役にきっと立てるという、

そのめまいを覚えるような幸福を。

誰かを助けた!という達成感の明るさを。

 

その倍くらい、

無力感や脱力や理不尽も経験すると思うけど

100回に一回くらい

大ホームランをすかっと打てるよ!

誰かの人生のドラマにあなたは颯爽と主治医役で登場し

主人公のピンチを鮮やかに救う。約束する。

 

とりあえず明日の試験、がんばって!

いつかどこかで同じ目線でおめもじできますように。

来たれ若人、(特に産婦人科で)よろしく頼む。

 

婦人科 まるぽこうさぎ。拝