婦人科便り173 腹腔鏡手術だとがん化する?? | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ウェルカムですが
最近ご質問内容が
すでに記事になっていることが多くなってきました。
お手数ですが、まずはブログ内をご検索ください。

今日も悩めるマダムからご相談来た。

メッセージボードをあんまり読んでなくて 爆

記事にするのが遅れてすみません。平伏

お急ぎの方はコメント欄からお願いしたいところ。

わがままは承知の助。

ゆっくりでいい人はメッセージでいいですYO

そのうち読みます。たぶん。自信なし。

 

Q.

手術を受けられる●●病院は

良性腫瘍でも全て開腹手術をするところです。

手術説明の時に医師が、
腹腔鏡下手術はお腹の中で子宮を切り刻む。
その切り刻んだかけらが他の臓器につくとガン化しやすくなる。
なので、腹腔鏡下手術はしない、という説明を受けました。

 

A.

え、それ、日本の話?

他の国の話じゃなくて??

 

語弊があると困るので先に言っておくが

手術の方法、というのは手段であって目的ではない。

例えば、子宮を摘出することが目的であれば

最終的にはそれが「安全に、効率よく」行われるのなら

別段、開腹術でも腹腔鏡手術でもいい。・・いいっちゃ、いい。

ただ、どちらでも「安全に、効率よく」行える可能性があるなら

よりストレスが少なく、

ぶっちゃけ、痛みが小さいほうがいいのでは、

と思っちゃうが、どうだろう。

誰しも

「ささ、いっそのこと、がっつりと

 真一文字に切っておくんなせい」

と潔いわけではあるまい。

まあ、お腹を開けた方が簡単な術式になる場合が多いので

1~2か月うんうん言う時間と余裕があるなら

勇者に立候補したらいいと思う。止めないよ。

だが、たいていは痛みを恐れるマダムが

過半数だろうと推察されるが、いかが。

 

そこで問題は安全性なのであるが

確かにくだんのちょんまげ医師がモノ申しているように

腹腔鏡手術では、臓器や病変を取り外したあと

どこからか出さねばならない問題があるため

「組織が散らばってお腹の中に残ってしまう」問題があれば

その術式を避けねばならない、とは思う。

私だってむやみやたらに腹腔鏡がいい、言うてるわけではない。

 

ちなみに、腹腔鏡で摘出したらがん化する、というのは

その先生がもしその通りに言っていたとしたら

カメラで写真を撮ったら魂が抜かれる、と恐れた

未開の地の現地の人たちと同等に扱っていいだろう。

・・・んなはずないやん、と全否定しておく。

 

腹腔鏡手術が理由でがん化することはないが

その摘出方法が問題になったことはある。

 

自由の国、アメリカでの調査で

腹腔鏡で子宮筋腫を核出したあと

その組織片から筋腫がまた生える現象(寄生筋腫)や

取ったあと肉腫だったことが分かり

非常にその後の治療が難渋した、という結果から

全面的に

「筋腫を核出する際に使う、

モルセレータという筋腫を切り刻む装置」が

禁止となった。

だいたい日本という国は

アメリカに右ならえ右!の風潮があるため

日本でもまたたくまに全面禁止、自己回収の憂き目にあい

一時的にモルセレータが不足した時期があった。

 

その後、筋腫を取り外した後、

お腹の中でビニル袋を広げてそれに入れ

そのビニル袋を改めてテントのように膨らませて

その中で筋腫を切ろうぜ!という、

ちょっとした手品みたいな方法を思いついた天才が出現

おかげさまで腹腔鏡下子宮筋腫核出術も殲滅されてしまわず

今現在も有力な術式として生き残っている

(・・・っつーか主に私の飯のタネである)。

 

また、日本はみんな大好き国民皆保険が

全国隅々までいきわたっているため

術前に骨盤MRIなる、優秀な検査を

手術の可能性があるマダム全員に行っているため

ある程度の精度をもって肉腫を見分けられている、と言える。

その実、アメリカは医療費が目玉が飛び出るほど高いので

あまり検査を行わず、オペしてみてびっくりケースが

非常に多いというバックグラウンドを忘れてはならない。

 

もちろん、比較的医療事情が恵まれている現代日本であっても

すべての術前の精密検査をすり抜け

やっぱりびっくり悪性でした、とか言う

ほんとに運の悪いマダムも少数ながらおられるので

自分の運の悪さを自覚するなら

開腹術一点決めでよいだろう。

 

ただ、悪性疾患ですら

初期の段階であれば腹腔鏡手術でしよか?という

ありがたい世の中で、なおも頑固に開腹術「のみ」を

マダムに推挙するとは

わりと明治時代の飛脚を思い起こし

失笑を禁じ得ない。

 

手紙は走って届けず、ポストに入れようぜ。

っつーかもはや年賀状も

気軽にLINEスタンプにとってかわられつつあるというに

なぜに矢文もしくはのろし?それって税金でもかかること?

(ひとりごとだYO)

 

個人的な意見になるが

何かの術式を真っ向から否定する医者は

たいてい、その術式をしたことがない。

もしくはあまり習熟できておらず

自信がない。

試しに、上記のちょんまげ医師に

「せんせはこの手術を腹腔鏡で何例くらいしていますか?」

尋ねてみられよ。おそらく数例もしていまいと

意地の悪いアテクシは思う。

 

人間とは、自分ができないことには

懐疑的になる生き物なのである。

 

それが男だとさらにこの傾向は高まる、という

究極に個人的、逆恨み的意見を

書いてこの記事を終わりたいと思う。