婦人科便り172 卵巣温存も時と場合と人による | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ウェルカムですが
最近ご質問内容が
すでに記事になっていることが多くなってきました。
お手数ですが、まずはブログ内をご検索ください。

いや~お問い合わせが多かったのが

卵巣どうするか問題。

諸先輩方の啓蒙活動が功を奏しているのか

両側の卵巣取ったら閉経する、というのは

世間一般的に周知徹底されているようです。

 

確かに私がうら若き乙女であった頃

特に腫瘍専門の先生方は

「卵巣がんになったらいかんけん、

 一緒にとっとこ」

と言いながら、頼まれもしないのに

子宮のついでに卵巣も摘出していた。

それはもう鮮やかで

一滴の出血もないくらいの美しいオペであったが

それをされたマダムはたまったもんじゃない。

両側の卵巣摘出後、おおよそ3日くらいで

体中の女性ホルモンはゼロになるため

まるでジェットコースターに乗ったかのような

急降下を経験し、更年期障害でのたうちまわる。

 

そんなマダムの手を握って一緒に泣くしかなかった研修医時代

卵巣がんってそんなに有病率高かったっけ?

と、気が付く頭もなく

ただただ先輩のいうと~りに馬車馬のように働いていた頃が

今も鮮やかに蘇ります。

ま、私の海馬も昔のことはよく引っ張り出せる。

 

今や、術後のトラブルのほぼ半分くらいが

「ついでに取った卵巣」のせいであることが

都会から田舎まで十分行き渡ったおかげで

もはや最初から

「卵巣も一緒に取っちゃっておくんなまし、さあさあ」といった

まるで野武士みたいなマダムはほぼほぼ絶滅した。

 

逆に、卵巣があると治そうとする病気そのものが困るよ

というマダムが抵抗するため

術前説明に苦労しております。

以前、私も卵巣は一緒に取らん方がええで

そんなん言うやつ絶対男やろ、と性差別的なことを上梓していたが

あまりに「卵巣取られそうなんで、加勢してください」という

助太刀的メッセージをいただくようになり

「あれれ?」と思うマダムも散見されるようになったため

今日は大事なことを赤文字で書いておく

 

卵巣温存は時と場合と人による。

 

特に問題になるのが

子宮体がんとそれに連なる病気、の場合だが

子宮体がん、複雑型子宮内膜異型増殖症の診断については

女性ホルモンにより再発、転移、浸潤の可能性が残されており

両側の卵巣を摘出することが標準治療になる。

子宮体がんは理解しやすいと思うが

複雑型子宮内膜異型増殖症については、がんじゃないのに何で??

と思うだろう。

子宮体がんの診断はこのブログのどっかにも書いてあるが(無責任)

非常に診断が難しく、

術前に複雑型子宮内膜異型増殖症と診断がついた場合でも

「高率に」子宮体がんが「あとで」見つかるためである。

 

もちろん、術後にやっぱ、がんはなかったとなるケースもあるため

まず子宮だけ摘出し、

がんが見つかったときだけもう一回卵巣を摘出しに行きます、

という二段階戦法でも構わない。

ただ、複雑型子宮内膜異型増殖症との診断をするには

子宮摘出前になんらかの組織の検査をしているはずで

そこで「執刀医の経験に裏打ちされた勘」みたいなのが発動され

「・・・こりゃたぶんがんだな」と思っている場合もあり

主治医・執刀医がいっぺんに済ませてあげたいという気持ちから

卵巣摘出を勧めている場合もあると思う。

 

それでもど~しても卵巣を摘出されたくないマダムは

「先生は私が卵巣を摘出しないことに対して

 どう思われますか?」と

聞いてみるといいと思う。

そして、見解を尋ねることができる関係を築いておくべきだ。

よく、不安のあまり

医療関係者のともだち、とか親戚、とかに聞いて回って

主治医の話を否定したり疑ったりするとかとかマダムをよく見かけるが

人間どうしのお付き合いに関して

やっぱりそれは失礼だし、努力が足りないと思っちゃうYO

神経質で気難しいアテクシですら

聞いてけろ!と思いますですよ。

 

もちろん、医者にも当たり外れがあるので

嫌な奴に苦しめられることも往々にしてあるとは思うけど

結局のところ

家族でも友達でも医者患者関係でも

言葉にしないと伝わらないってのは

私たち人類がクロマニヨン人時代に

言葉という魔法の道具を獲得してからこのかた

共通意識で間違いないんじゃないか?

と思う今日この頃であります。