息子のキコとチャチャは一卵性双生児。顔も背格好も、まぁ、よく似ています。親の私はさすがに見間違えたりしないですが、初対面でふたりを識別できる人はいないですし、iPhoneのピープル機能*も二人を同一人物として認識しています。


 でも、チャチャの体格がキコに追いついたのは割と最近のこと。振り返れば、お腹の中にいた時からチャチャはキコより一回り小さく、痩せていました。


 そのせいなのか分かりませんが、二人が風邪を引いたら、こじらせるのはいつもチャチャでした。お座りも、積み木も、歩き始めも、トイトレも、おしゃべりも、いつもキコに遅れを取ったのはチャチャ。


 とはいえ、二人とも至って健康で、その差も、誰も気に留めないほど僅かです。それでも、チャチャは、幼いながらにその差にずっと気付いていました。キコに先を行かれる度に、無邪気に喜ぶキコの横で、悔しくて悔しくてビィビィ泣き、怒っていました。そして、そんなチャチャを見る度に、母である私は幾ばくかの申し訳なさを感じていました。


 今日は、そんなチャチャが大好きな絵本のご紹介です。



『スーホの白い馬』大塚勇三 再話/赤羽末吉 画(福音館書店)


 貧しい羊飼いのスーホが、ある日、生まれたばかりの白い馬を見つけて連れ帰ります。スーホが大事に世話をした白馬は、強く、逞しく、とても脚の速い馬へと成長します。そんな白い馬をスーホから奪おうとする殿様に、必死に抗おうとするスーホと白い馬の深い絆が描かれる一冊です。


 スーホと白い馬が、横暴な殿様に痛みつけられるシーンは、とても悲しく、子ども達の心を揺さぶります。初めて読んだ時、息子達は、殿様とその家来の絵をバシバシ叩きながら「だめ!だめ!」と、必死に涙を堪えていました。


 スーホとキコチャチャの祈りは残念ながら届かず、胸の痛むエンディングを迎えますが、それでもこの絵本は初めて読んだ時からキコチャチャのお気に入りの一冊であり続けています。


 特にチャチャは、スーホの腕に抱えられる美しい白馬の表紙画に、読み始める前からうっとり。そして、貧しく慎ましく生活していたスーホが、白馬に出会い、そしてその白馬に乗って誰よりも速く駆け抜ける姿は凛としていて爽快です。


 チャチャは一度だけ、馬、正確にはポニー、に乗ったことがあります。街のフェスティバルで、子どものためのポニーライド体験があったのです。まさか、当時二歳にも満たなかった息子が乗せてもらえるとは思わず、遠巻きで見物していたのですが、チャチャだけは乗る気満々で、自分よりはるかに大きいお兄ちゃんお姉ちゃん達に混じって列に入っていきました。

 

 係の人が、小さなチャチャを見つけて、すぐに一番小さな栗色のポニーに案内してくれました。でも、本人はその小さなポニーを断固拒否。一番大きくて黒いポニーを指さして一歩も譲らず、結局黒いポニーが回ってくるまで何度も並び直して、お目当てのポニーに乗りました。黒いポニーの背にちょこんと座り、しっかり前を向いて手綱を掴んだ小さなチャチャは、とても誇らしげでした。


 怖がって私の腕から離れなかったキコに馬上から手を振り、前を横切るチャチャの姿に、私はふと、幼い頃に読んだ『スーホの白い馬』を思い出しました。後に、お友達に借りて『スーホの白い馬』を息子達に読み聞かせた時、チャチャも自分が黒い馬に乗った時のことを思い出したのでしょう。「ぼくも黒い馬に乗ったよね」と自慢げに笑いました。


 それ以降、『スーホと白い馬』が読みたいと何度もせがまれ、何度もお友達に借りて読みました。そして読む度にチャチャは私に「ぼくが黒い馬に乗った時のお話して!」とせがみます。

 きっとチャチャの頭の中では、黒いポニーに乗った自分はスーホのように勇ましく、自分が乗った黒いポニーは白馬のように風をきって颯爽と駆ける思い出として残っているのでしょう。この絵本を手に取る度に、その時の誇らしい気持ちが彼の心に戻ってくるのだと思います。


 チャチャがその気持ちをこれから何度も何度も思い出せるように、彼の4歳の誕生日プレゼントにこの絵本をプレゼントしたいと思います。そして、読む度に「チャチャの黒い馬」の話をしてあげたいと思います。チャチャにはチャチャのモーメントがあることを、何度も何度も伝えたい、と母は思うのです。


 キコにもキコの思い入れがある絵本をプレゼントする予定です。そちらも今度ご紹介したいなと思います!

 

 

* iPhone のアルバム内の顔を識別して人物別に区分してくれる機能