手術当日の夜は長かった。
今まで生きてきた中で1番長い夜。

頭に血が溜まらないよう管を入れられているので
頭を動かすこともできない。

右足が動かない。
まるでとってつけられたような右足。
ずっと伸ばしっぱなし。
曲がれ曲がれ!と念じても
12時間前までは動いていた足とは思えない。
 

腰が辛くなってくる。
看護師さんを呼んで足を曲げてもらう。
曲げてもらってもしばらくしたら
今度は曲げていることが辛くなってくる。

その繰り返し。


そして喉をおもいっきりやられてしまって
虫の息みたい。
喘息の人ってこんな感じなのかな。
苦しい。死ぬのかな。

ずっとそんなことを考えていた。


寝られない。
身体は疲れているのに寝られない。


上を向いているから、喉が圧迫されて
息が出来ない。

段々パニックになってくる。

何度も看護師さんを呼んでしまう。

その内に嫌がられるようになる。

こんなに辛いのに。
ICUが忙しいのは分かる。
でも、息の仕方がわからないんだよ。


助けてよ。死んじゃうよ。


こんななら、麻酔から覚めずにこのまま死ねば良かったのに。

窒息死なんて嫌だ。
もう殺してよ…何で目覚めてしまったんだろう。


そんなことを考えていた。


ICUにいた隣のおじいさんは
多分認知症が入っていて
自分が何かさえも分かっていない人。

いびきをしながら寝ていて、
時に普通にぺっとツバを吐いちゃう。
いつもはうるさい!と思ういびきも
その時の私にとってはなぜか支えになっていた。

ICUにいるっていうのに、こんなにマイペースな人もいる。

こんなに楽観的な人もいる。


大丈夫大丈夫。
今日の長い夜を乗り越えて明日になれば
少しは状況も変わっているはず。

全然進まない夜を、私はひたすらに耐えた。