「まだ目覚めへんわ〜!先に家族の人に説明してくるわ!」


頭の奥の方というか、耳の奥の方というか…
はるか彼方から、先生の声がする。

あー手術終わったんだー。
身体の倦怠感すごいわ…
応答するの面倒やし、目開けんとこ。

そう思った瞬間。

ズボッッッ!!!プシューーー。

えっ?ちょっと待ってちょっと待って???
何これ!肺が勝手に動く!!!!!
人工呼吸器つけられてる!!!!


今までの手術は、麻酔から目がさめると病室のベッドの上で、
普通に息もしてたし、意識もぼんやりしながらもしっかりしていた。


なのに!なのに!!今回は人工呼吸器つけられてる!
死ぬ!死ぬ!!!

自分の呼吸とは違うタイミングで勝手に肺に入ってくる空気。
飲み込めないツバ。
動かせない手足(人工呼吸器取らないようしばられてる)

家族に説明行くゆーてたしな…と10秒位考えたけど、
それ終わるまで待つのとか無理!!
とおもっきり暴れてアピールする。

看護師さんが、起きた!?どうした?
唾液飲み込めないのがしんどい?
と言ってくれ、全力で首を縦に振る。
吸引しながら、先生を呼んでくれて
人工呼吸器は外された。


「きーさん(仮名)〜起きた?聞いてね。
まず、今、夜の9時半。
手術は無事に終わったよー!
これが腫瘍ね。
でもごめんね。きーさんの脳みそが
腫瘍取ったそばから戻ろう戻ろうとして
すごい腫れ上がってきたの。
このまま頭蓋骨を入れちゃうと
全身に麻痺が出る可能性があるから、
もう一度頭蓋骨を入れる手術をしないといけない。」

次々と突きつけられる現実。
4時間ほどで終わる予定だった手術は結局12時間かかったこと。
もう一度このしんどい思いをしなくてはならないこと。
一般病棟へは戻れずICUに入ること。


そして極め付けの出来事。


「手!動く?」(動かす)
「指折り出来る?」(出来る)
「その手を顔まで持ってこれる?」(持ってこれる)
「足動かせる?」(……………!?!?!?)

うっ動かない!足がピクリとも動かない!!!
さっきまで動かせていた足。
どうやって動かしてたの??
動かし方が分からない。

「動かし方が分かりません…」


「あーオッケーオッケー!わかった!」

先生はそれだけ言うと、
家族への途中で終わっていた説明をしに、
去って行った。


12時間も手術をされて私は疲労困憊だった。
何も考えられなかった。
とにかく今は足が動かない現実を
受け止める余裕も考えもなかった。


家族と彼がICUに入ってきた。


彼は固まっていた。
家族も精一杯の笑顔でお疲れと言っていた。
多分今自分はやばい状況なんだろう。
何となくそれは分かった。

「大丈夫だからー!遅くまでありがとう!」

こんな状況でも大丈夫だと言える私、すごいと思う。
12時間も人工呼吸器をつけられていたので
声が全然出なかった。


母が、「あかんあかん!この子疲れてるから皆帰るよー!」と5分も経たずして皆を外へ出そうとする。

彼が去り際にベッドで動けない私を抱きしめて、
「きーさん。よく頑張ったな。」と
涙ぐみながら言う。


皆がみーんな私を思ってそれぞれの行動をする。


時間は同じように流れているのに、
私と私の周りの時間だけが止まってしまった。
世間から断絶されたような何とも言えない気持ち。


今でも忘れない。