年老いて火を焚いてをるひとりかな

【作者】橋上 暁

 

 

公益社団法人 全日本印章業協会の役割に「印章アドバイザー」というお仕事があります。

これは、お客様に印章のアドバイスをするのではなく、実印を登録する先の市区町村の役所からの問い合わせにお応えするというものです。

住民が印鑑登録の窓口にハンコを持参されるのですが、そこに彫刻されている文字がその方のお名前なのかどうか、窓口の人が分かりにくい?印章文字に困られているのにアドバイスをさせて頂いています。

 

そのお問い合わせが、松の内が明けてから急に多くなりました。

昨日などは2件、ほぼ毎日続いています。

それだけ印鑑登録が多いとも取れるのですが、それならそれでよいのですが・・・

問合せは、全て印相体という書体です。

私は、印章文字は商業デザインに通じるものがあるので、それを否定するつもりはありません。

しかし、あまり綺麗な書体とは言えず誤字が多く発生しますので、きちんとした技術者が推奨する書体ではないと思います。

それでも、昔は一定の基準ある文字の変化をされていたのですが、この間の問い合わせには、流石に登録への疑問を投げかけざるを得ませんでした。

どう考えても素人が篆書を自分なりに空間を埋めるために文字を曲げているとしか思えないのです。

中には別の文字に見えたり、明らかな誤字としか言いようのないもの。

可読できれば、まだ検討の余地もあるのですが、印鑑登録係の窓口の人が困り果てているのですから、読めないのです。

公益社団法人 全日本印章業協会は、全国の市区町村に協会が発行している『新常用漢字印章字林』をお配りしています。

窓口の人いわく、「それに載ってない形なので、お聞きしています。」とのこと・・・

勿論載っていない形のものもありますが、窓口の人が印章の価値や印章技術への不信を抱いても仕方がないかなと思います。

それより、そんなハンコ屋さんで彫ってもらった消費者は、どういう気持ちになるでしょう。

ハンコ屋への不信だけでなく、印章への不信を持ってしまいます。

嘗て、二葉樹香先生は大阪のハンコ屋さんの文字があまりにも乱れているので、それでは東京に勝てないとの想いで講習会を立ち上げられたと聞いています。

今、全国の技術講習会の役割がここでも問われているような気がしてなりません。