梯子あり颱風の目の青空へ

【作者】西東三鬼

 

台風が通ると空が低い能登の海を思い出します。今年に入り、能登の海を見たいと思いつつ春が過ぎて夏に向かおうとしています。雨や台風は確かに災害をもたらすが、周辺を美しくはしないが、きれいにしてくれるという感が私にはあります。

 

 

印章を取り巻く環境も、「押印廃止」やハンコレス社会は印章業界において負の在り方かもしれない。私の商売にとってもマイナスの出来事ですが、印章にとっては、今までの印章を商う姿勢の負の在り方が浮き彫りとなり、それをきれいにしようというエネルギーが動いているようにも、最近になり感じています。需要は大きく減少していて、町のハンコ屋さんの廃業をよく耳にするようになりました。大きなところほど大変なのだとも思います。しかしながら、それでもわずかながらの仕事があります。フェイスブックで同業の印友が「仕事があることに感謝」と発信していましたが、その仕事は、先人の努力のお蔭で「印章を大切に思う人」を多く作ってくれたおかげだと私も感謝の念を持ち、今日も印面に向かっています。

 

 

国策としてのデジタル化に伴うハンコレスや押印廃止が元凶と思っていたのですが、そこに行きつく隙や業界のマンネリ化が変化していく社会に対応出来なくなってきているのだと考えます。誰が悪いとかということを言っているのではなく、そう言う現状なのだということを認めていかないと、悪化する印章を取り巻く環境をそのまま見過ごしていき、何もしないでは終焉にいたることは明瞭です。物を申すなら物を言い、新しい在り方があるなら、そこへ向けて船出の準備をしなければなりません。今、凪の状態の(実用印章の)業界に不思議な感覚を持ちます。今ある仕事もこのまま続くのかというと、それはそうではないと思っている業界人がほとんどだと思います。

 

毎日新聞の『今週の本棚』に赤木明登さんの『輪島 小さな木地屋の物語』の書評を社会経済学者の松原隆一郎さんが書かれていました。是非とも目を通して頂きたく思います。輪島で、小さな木地屋さんを営んできた池下満雄さんの仕事は、先人から受け継がれてきた技術をそのまま表現してきました。その在り方に対して地震が工房を潰して仕事の断絶を提示してきました。それに対して赤木さんを先頭にしたチームが工房を再建することにより、木地屋の技術を後世に伝えるという大きな役割を果たしました。池下さんの工房に残された荒型を救い出した赤木さんは、単に荒型を救出したのではなく、池下さんをとおして連綿と続いて来た大切な漆の仕事や工藝の在り方を救出したのだと私は思います。

 

今の印章業界に無くて、求められているのは、まさにこういうことではないのだろうかと強く思います。