途中からなので
下記☟
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はじかれ者中学生3人が『禁忌の石段』の謎を解くミステリー小説
背後で、織田村が説明板を読み上げた。
「この分水工は中世鎌倉時代の遺跡である。水量の多い未遠川の、度重なる決壊を防ぐために、また、水不足の高台へ農業用水を引くために、水流を二手に分けた。しかし、分水工も、未遠川氾濫の抜本的解決にはならず、江戸時代中期には、さらに上流から、高台に向け派川を引く治水工事が行われた。これ以降、未遠地域の浸水被害は大きく軽減される。また、高台に引かれた派川は、その後、戦後開拓の地となった鷹野台へ水路を伸ばし、今に至る。なお、これらの偉業を後世に伝えるため、大正十五年に碑が建立された。未遠自治会」
(☝ここまでが前回)
矢儀はもう一度、説明板の文面を追いながら、メモを取る。
「もう、ええじゃろ。上へ上がる道なんてなさそうやし、さっさと引き返そうや」
背後から、兼行が苛立った声を上げる。矢儀は気にせず、メモを取り続けた。が、ふと気になって、ズボンのポケットから、懐中時計を取り出す。
十六時十分。今日は天気が良いから、十七時半くらいまでは大丈夫だろう。だが、秋の陽は釣る瓶落とし。早いところ、上へ上がる道は見つけたい。
「懐中時計ですか?」
いきなり織田村が訊いてきた。
「……窪んでますけど、動いてるんですか?」
覗き込んでくる織田村に、矢儀は一言「もちろん」とだけ伝えた。説明板の必要な個所をメモすると、手に持ったすべての物をポケットに仕舞う。
「さて、どうやら、これ以上奥には、上へ上がる道はなさそうだし、今度は下ってみるか」
言いながら、矢儀は自転車に戻り、向きを変える。顔を上げると、兼行は、すでに出発していた。「行くぞ」と織田村を促し、ペダルに足を掛ける。
引き返す道のりは、実に楽だった。緩やかな下り坂のおかげで、ペダルが軽い。
「ちょっと、部長! 本当に、引き返していいですか?」
後方から、織田村が大声で問うてくる。
「もしかしたら、もう少し先に、上へ上がる道が、あるかもしれませんよ?」
矢儀が答えるまでもない。
「アホか」と、前方の兼行が振り返る。
「道が、石段のあった山際から離れた時点で、あり得るか!」
「わかんないですよ」
織田村も強気だ。
「もう少し先に行けば、もしかしたら、また道が山際に沿っているかも」
「……あんなぁ」
聞くに耐えかね、矢儀は口を挟んだ。