こっそり
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はじかれ者中学生3人が『禁忌の石段』の謎を解くミステリー小説
その石段、通るべからず
露な美紀の額に、一瞬、青筋が見えた。
ただ、稔よりは、よほど大人だと思う。
美紀は、余所の子供の手前、露骨な怒りは見せなかった。
「放っちょいてぇや」と、鼻にかかった高い声で、軽く受け流す。
「ダイエットは、まだ始めたばかりなんじゃけぇ」
「ほじゃけど、盆にやった同窓会の後からじゃろ? もう三ヶ月近くは経つぞ」
稔は案外しつこい。
もうやめておけばよいのにと、矢儀は気が気でなかった。
美紀からも話を聴きたい。機嫌を損ねられては困る。
矢儀の心配は的中した。
美紀は「うるっさいわ!」と、真顔で稔を一喝する。
「ちょっとずつは痩せちょるんじゃけぇ。まだ、見た目にはわからんだけなそ!」
声だけは、矢儀の同級生女子よりよっぽど可愛らしいが、目は完全に笑っていない。
稔もさすがに地雷を踏んだと気づいたらしい。
視線をタロウに落とし、無意味にリードを引っ張る。
場の空気を読んでか、タロウはすっかり大人しくなっていた。
リードを引っ張られ、真っ黒い瞳を、健気に主に向ける。
居心地の悪い沈黙に、矢儀は、たまらず割って入ろうとした。が、先に美紀が「それで?」と続きを促す。
大きな目で、ちらりと矢儀たちを見た。さすがに、見知らぬ中学生の存在が気になるらしい。
「おお、そうじゃった」と、稔は急いで話題を変えた。
「何年か前に、用水路の向こうの石段から人が落ちて亡うなったじゃろ。あの事故はいつじゃったか、覚えちょるか」
問われた美紀は、不快そうに顔を顰める。黙ったまま、用水路の向こうを見遣った。
今、矢儀たちがいるところからは、竹藪が邪魔をして、件の石段は見えない。
不穏な空気に、誰も口を挟めなかった。
再び視線を戻した美紀は、もう一度、矢儀たちを一瞥し、最後は稔に視線を戻した。
なぜ、今、見知らぬ子供の前で聞くのかと、無言で稔を責めている。
「いや、この子らが訊いてきたんちゃ。何でも学校で、石段の事故について調べちょるらしゅうての」
なんだか、誤解を受けそうな表現だ。
矢儀は、慌てて口を挟んだ。
「僕たち、仁保中の生徒で、郷土史研究部に所属しています。僕は矢儀、もう一人は織田村です」
好印象を与えるため、まずは挨拶と笑顔だ。
美紀の硬い表情が、少し和らぐ。
矢儀はすかさず続けた。
「実は今、部活動で、未遠の石段にまつわる言い伝えについて調べています。もし、お時間があれば、祟りや事故の詳細について教えて頂けますか?」
「祟りねぇ……」と、美紀は鼻先で冷笑する。
明らかに、含みのある呟きだ。
訝しく思った矢儀の内心に気づいたか。美紀はスッと視線を逸らす。
「祟りかどうかは知らんけど」と、前置きをして喋り出した。
「実際に事故はあったんよ。確か、四年前の夏やったじゃろ」
「ほうかの? 四年しか経っちょらんかの」
とぼけた表情の稔に、「間違いないけぇ」と、美紀は強気だ。
「うちの上の子が、中三の時じゃったんじゃけぇ。息子は遺体を見てショックを受けてねぇ。それっきり全然勉強が手につかんくなったんよ。あの事故さえなかったら、山高に行けちょったやろうに」
最後は遠い目をしてぼやく。
「もしかして、息子さんが第一発見者だったんですか?」
矢儀は、前のめりになって問うた。