それでも悲しき軽量級 | ボクシングのこと~好き勝手に語るブログ~

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井上尚弥の破壊的な強さを見せてもらった。

素晴らしい勝利だった。

日本にもいよいよ本物の怪物クラスたりうる凄いボクサーが出てきたものだ。

しかしテレビ放送冒頭でのバンタム級という階級に対する無駄な煽りは酷かった。テレビ的にはああするしかなかったのかもしれないけど、極端なバンタム級礼賛には少しゲンナリしてしまったね。

黄金のバンタム
「すべての人種、民族が集まる層の厚い階級でスピードとパワーを兼ね備えた好選手が多い」
という語りがあったけど…なんだかね。

何をどう言おうがテレビ局の都合だからどうでもいいことなんだけど、この説明は少し違うと思う。公の場で発表する代表的な立場にあるマスコミやテレビは根拠の無い嘘やデタラメだらけだから何でもありだけど、こんな説明は現実に則してない。この表現は自己満足するための過大評価でしかない。そもそも「黄金のバンタム」というのはその階級自体を礼賛するのではなく、エデル・ジョフレ個人を讃えた言葉なんだから。

そして日本人唯一のモダーン部門殿堂入りレジェンド原田さんの自画自賛ぶりも凄かった。
「世界ではジョフレでしょ。ヘビー級なんかよりジョフレでしょ。当時はバンタム級のジョフレが最強のチャンピオンだから」
「そりゃそうですよ。無敗ですよジョフレは。50戦無敗で17連続KOでしょ。それをやっつけるんだもん」
こう大絶賛されてもかなり昔のことだから本当にそんなに凄かったのかは正直よくわからない。ヘビー級なんかよりジョフレ…当時のバンタム級王者ってそんなに評価されてたのかなぁ。まぁジョフレはバンタム級史上最強のレジェンドと言われるほどの人だし、原田さんはそのジョフレに勝った凄いチャンピオンなんだからまぁこれはこれでいいのかな。

辰吉丈一郎、長谷川穂積、山中慎介、日本が世界に誇るレジェンド達…とか言ってたけど、この人達は日本ではレジェンドかもしれないけど世界ではレジェンドどころか殆ど知られてないというのが実状だろう。

日本人世界王者は日本でしか試合をしない日本から出ようとしない日本人しか知らない内弁慶と言われている。だから世界王者という肩書きはあってもその国際的な知名度は極めて低い。そしてこのところやたら人数だけは居る日本人世界王者だけど本当の意味で階級最強に近い存在だった田口が敗れた今となっては階級最強クラスの王者は一人も存在しないというのが現状だろう。井上はこれから階級最強になる可能性があるけど、WBSSで優勝してそこで初めて堂々と階級最強を名乗れると思う。

そして日本限定レジェンド達の宣伝コメント

まずは山中慎介
「世間一般の方はバンタム級の王者といえば日本人が多いというイメージも残っているでしょうし、自分自身もバンタム級のチャンピオンという名を汚してはいけないという思いも正直ありました」

これはわかる。日本では漫画「明日のジョー」の影響もあってバンタム級という階級は特に我々世代にとって親しみのあるメジャーな階級。そして過去に日本人王者が何人もいて思い入れもあり特別な感じがする。でもそれは日本独自のボクシング文化的な色合いが強い。

しかし長谷川穂積の
「いろんな国の選手が減量してナチュラルに(競技人工が)一番多い階級じゃないかと思っている。次から次へと強いのが出てくる階級」

これは違うんじゃないの。バンタム級という階級に対して本気でこんな認識を持っているとしたら国際基準ではちょっとズレてる気がする。現実的には最も層が厚くて強豪がどんどん現れるのはライト級~ウェルター級辺りじゃないのかな。まぁ長谷川も本人の意思ではなく、テレビ局のセリフとして言わされてるだけだったのかもしれないけど。

現実的にはっきりと言えば、本場アメリカでバンタム級は不人気階級。更にその下の階級となると扱いはもっと酷くなる。ずば抜けて強くてもよほどの人気選手でない限りプロモーターには全く相手にされない。リカルド・ロペスはストロー級(現在のミニマム級)で絶対的な最強の存在だったけど、本場でその扱いはメインはおろかファイトマネーも酷いものだったようだ。

本場で人気階級という括りに入るのはフェザー級以上。軽量級は殆ど無視されてる。興行は行われてもその規模やファイトマネーは日本では考えられないほどミニマムだ。

フェザー級以下の階級となると一部の人気メキシカン(過去ではサラテ、バレラ、モラレス、マルケス弟、バスケス等、現在ではサンタクルス、マレス等)を除いて殆ど相手にされてない。それが現実なのだ。

まぁバンタム級WBSSがどこまで盛り上がるのかはわからないけど、番組で言っていたような賞金総額55億円なんて事はまずあり得ないだろう。あれはシーズン1のクルーザー、スーパーミドル級の話だから。バンタムでは良くて半分かそれ以下のスケールになるだろう。

何かと大袈裟に騒いで盛り上げるのもいいけど、世界の軽量級に対する人気や興行規模は驚くほど低い。ファイトマネーなんて日本で試合をする方が圧倒的に割りが良い。だから日本は軽量級の市場規模を考えたら聖地とも言えるのだ。

本場で例外も無いわけではないがやはり限界がある。100万ドルを越えたら一流と言われる本場において何回も試合を行いPFPキングに昇りつめたロマゴンでさえ60万ドルが最高だった。過去にも軽量級で100万ドルを稼いだのはカルバハルくらいだろう。

でもそれだからと言って軽量級がつまらないというわけではない。軽いから動きにスピードがあるし、一発強打は少ないとしても、連打や打ち合いはそれなりに迫力がある。

WBSSバンタム級が世界からどこまで注目されるのかはわからないが、井上がそこを勝ち上がって世界に誇る軽量級のスターボクサーになってくれたら嬉しい限りだ。その道はとても険しいと思うけど、井上なら上手くいけば海外で1試合100万ドルも夢ではないと思う。

だけど井上がパッキャオ二世?それはちょっと言い過ぎかな。国際的な人気と実力を兼ね備えたパッキャオとメイは全くの別次元だから。彼らは怪物どころか化け物。さすがの井上でもとても届くレベルではない。そして階級にしたって井上は上げてもスーパーバンタム級が限界だと思う。そうすると辿り着ける立ち位置はいいとこドネアクラスだろう。

そして何よりも井上が本場で成功するにはいくつかの条件が必要だ。まずもう1階級アップしてスーパーバンタムに転級。そして転級したスーパーバンタムにメキシカンの強いスターボクサーが存在すること。そして井上自身が転級前までに国際的知名度を高め、そのスターボクサーと本場で試合を組んでもらえるような立ち位置にいること。そしてそのスターボクサーを相手に明確に勝つこと。これはかなりハードルが高い。強いことはもちろん、運にも恵まれなければならないのだから。

そしてそこまでの領域まで仮に辿り着いたとしても、パッキャオクラスはそれよりもまだまだ遥か先にある特別な存在なのだ。

なんかこんなことを書いていると夢も希望も無くなってしまうけど、これが現実。日本人がこのボクシングという素晴らしい個のスポーツで世界的なスターになるには、日本のジム制度、そして元々の民族性、このスポーツに対する肉体的な大きさや適性、メンタル面など、様々な要素を考えてみるとやはり難しい気がする。だから現状では日本人が本当の意味での世界で活躍するスターボクサーになるのはかなり厳しいと言わざるを得ない。野球やサッカーのように日本人が海外で活躍するにはまだまだボクシングというスポーツはいろいろな意味でハードルが高そうだ。

だから井上の事を軽々しくパッキャオ二世なんて言うのはどうなのかな。マクドネルに圧勝してはしゃぎたい気持ちはわかる。でももし本気でパッキャオのようになれると思っているとしたらそれは誇大妄想に近い。しかしそれでも我々にそんな期待を井上が抱かせてくれというのもまた事実。私もパッキャオ二世とまではいかないにしても井上がそれに近い存在になってくれることを期待している。

昔から日本人は将来有望なボクサーを「○○年に一人の天才」と言って煽る。これはオーバーだとは思うけど、井上に使うとしたらどうなるのか。既にこのシリーズ、100年(具志堅用高)と150年(大橋秀行)、200年(亀田昭雄)はもう使われてしまっている。だから次は中途半端な250年なんてのは飛ばしてここは一気に「300年に一人の天才」なんてのを使うしかないのかな。300年に一人の天才…大袈裟に過ぎるような気もするけど、確かに井上はそのくらい凄い存在ではあるかもしれないね。