先日小平の朝鮮大学校に行ってきました。創立55周年を記念して朝鮮問題研究センターを開設した事を宣言すると共に、それを記念して「躍動する朝鮮半島その展望と課題」と題する国際シンポジウムが開かれたので,それに参加したのです。
シンポジウムには中国精華大学訪問教授のチョン・ギヨル教授、中国北京大学のキム・ギョンイル教授、東北アジア研究ネットワークの小牧輝男全国士舘大大学教授がそれぞれ発題しました。シンポジウムの終了後、平壌科学技術大学のパク・チャンモ名誉教授が記念報告をしました。それぞれ学ぶことが少なくありませんでしたが、個人的にはキム・ギョンイル教授の意見には賛成しかねませんでした。
同教授の主張は地政学的見地からの接近方法では朝鮮半島問題を解決することは出来ず、地経学的接近方法をとらなければならないと言うことでした。しかし彼の話を聴いているうちに疑問が沸きました。かれは地政学をどれほど知っているのか、また朝鮮問題の何を知っているのかという根本的な疑問です。聴講しなかった読者には申し訳ないことですが,重大な問題が潜んでいるようなので、ブログで扱うことにしました。
明らかに彼は地政学と地経学を相対化して話していました。地政学的接近方法では問題は解決しない、地経学的接近をこころ見るべきだと言う主張そのものがそうです。ここで地政学について長々と語るつもりはありません。ただ、政治的対立を経済的共通点の積み重ねによって解決する事が出来るかのような見解には同意できません。元来地政学も地経学も共通したいくつかの原理的認識を持っています。その原理的認識を管理人なりに整理するとこうなります。
・地球を支配しているのは弱肉強食の世界である。個別国家を主体とした国際社会もやはり弱肉強食の原理に基づいて関係を築いている
・弱肉強食の世界はアノミーに溢れており,アノミーは秩序を欲する。
・その秩序を形成する過程は覇権を求める過程でもある。
・各国は覇権を求めて闘うが、各国は自国の地理的あるいは経済地理的状況の拘束を受けている。
・従ってその闘いで優位に立つかどうかは,その国の地理的あるいは経済地理的位置によって決まる。
・各国は引っ越すことなど出来ないのであるから、地理的あるいは経済地理的状況の拘束を受けるのは宿命的である。
とまあ、こういうことになるでしょう。要するに各国が国際政治の場で占める位置ははなから宿命論的に運命づけられていると言うことです。
例えば地政学敵視点から朝鮮半島を見ますと、そこは世界制覇に繋がるハートランドと接触しており、リムランドの中でも海洋勢力が大陸勢力の反対を押しのけてハートランドに進入するもっとも良好なハイウェイの位置にあると言う事が出来ます。実際、歴史を見ると、海洋勢力である日本やアメリカが大陸侵攻のための橋頭堡として認識していたことが判ります。とくに豊臣秀吉が「仮道征明」の言葉を使ったのは良いたとえです。アメリカが朝鮮戦争を前にして策定したNSC68にもそうした認識がはっきりと現れています。
つまり地政学とは元来侵略の論理だと言うことが出来ます。ヒトラーの「生存圏」論や日本帝国主義が好んで使った「生命線」論などは全てとは言わないまでもこの地政学に基づいたデマゴギ-だと言っても良いでしょう。
ブッシュ(jr)政権に入って地政学は再び脚光を浴びました。ブッシュ(Jr)自身が地政学で言うリムランドを彷彿させる「不安定な弧」という言葉を使っています。その「不安定な弧」とはまさにリムランドと重なっています。そしてそれはアメリカの世界戦略のなかに位置づけられました。
ところが今や軍事的覇権までが崩れ去ろうとしているアメリカの現在の状況下で、新たな世界秩序をどのように築けば良いのかという問題を巡ってアメリカ、日本、ヨーロッパなどのいわゆる先進資本主義国家の御用学者連中は頭を悩まし、その過程で新たに生み出したのが地経学と言う言葉です。まだ学問的に確立したとは言えませんが、日本でも中国の勃興に恐れをなした保守派を中心に少しではありますが,著書が顔を出しはじめています。地政学が地理的概念を使って覇権の論理を組み立てたのに比べ地経学は金融、経済地理的概念を基本にして似たような論理を進めようとしています。中国でもアメリカナイズされた学者の中で地経学がもてはやされているようです。
中国の世界的規模での資源外交が急速な経済発展、人民元の世界的シェアの拡大、中国の世界的発言力や影響力の拡大などが日本やアメリカ、ヨーロッパなどに恐れを抱かせ、一人勝ちの様相がそれら諸国から強い抗議を受けていると言う現状認識も中国にはあるでしょう。地経学でもっとも注目されている問題は果たして何がドル基軸通貨体制に取って代わるのかという問題と資源の占有問題です。そして政治的多極化に相応する地域的経済ブロック化の問題も含まれるでしょう。
話が堅苦しくなりましたが、眼を朝鮮にむけて見ましょう。朝鮮の地経学的位置を最も良く見せてくれるのが羅清・先鋒地帯です。まさに海洋勢力がハートランドに入り込む絶好のルートです。キム教授の言いたかったことは、ひらたく言えばこういう経済地理的位置を利用して経済的関係を深めて行く中で政治的対立面を狭める方法論を採れと言うことですが、管理人に言わせれば一つを知って十を知らないと言わざるを得ません。
彼のこの主張は古くはデビット・ミトラニーと言う学者が主張していることで、実際に現在のEUの前身であるEC(欧州共同体)を作るときに、適用された方法論です。事実ECはヨーロッパ諸国の統合を目指しながらも各国の政治的対立がなかなか解消されず、実現可能な問題から接近しようとする機能主義的方法論にのっとってまず、鉄鉱で次に石炭で経済共同体を作り、欧州共同体の基礎を作りあげ、それを徐々に広げて行く過程で経済の共同運営を阻害する各国の政治制度や法律を変えて行き、ついには政治的共同体にまで発展させていき、それが今日のEUになったのでした。つまり経済的利害関係が共通利害を広げて行くことで徐々に政治的対立をなくしていくと言うことです。経済的に共通の利害関係が生まれれば、各国はそれを失わないように努力するので、結果的に政治的対立関係も是正されていくというわけです。
しかしこの方法論を朝鮮半島に適用するのはお門違いです。いかなる問題にもその問題を生じさせた、その問題自身に内在する論理というものがあります。この論理を解消することで初めてその問題は解消されるものです。従って作業は、その問題に内在する論理をえぐり出すことに向けられる必要があります。
では現代朝鮮問題に内在する論理とは何でしょう。これについては精華大学のチョン・ギヨル教授が明確に指摘しました。簡単に言えば過去70年にわたるアメリカの朝鮮に対する一方的な侵略的野欲とそれに抗する朝鮮の反米闘争の論理です。この論理がどのような構造を持っており、現在それはどこまで進んでいるのかという問題をまずえぐり出すのが先決です。その点でチョンギヨル教授はアメリカによる朝鮮「悪魔化」について指摘します。アメリカによって世界に広げられた朝鮮「悪魔化」は日本や韓国、イスラエルなどに伝搬され、朝鮮とアメリカの闘いはあたかも「悪魔と善人」の、「異常と正常」の、「民主主義と独裁」の闘いのように歪曲され続けています。現在日本を支配している朝鮮認識がこうしたアメリカのプロパガンダに完全に毒されていることは言うまでもないでしょう。
アメリカは黄昏を迎えつつありますが、未だに超大国です。その超大国によって、東アジアの小国が政治、軍事、経済的に締め付けられていると言う現実を冷静に見据えた場合、キム・ギョンイル教授の指摘はうつろに聞こえるばかりです。彼はもっと朝鮮を知るべきです。しかも冷静に、客観的に,現実をしっかりと見据えて、とくに今年のキム・ジョンイル国防委員長の訪中、訪ロの持つ意味をもっと正確に、捉える必要があるようです。
地経学の専門家ではないので管理人の理解に間違いがあるかも知れません。一応お断りをしておきます。
それから明日から約2週間、日本を離れる事になりました。そのため明日から当分おやすみになります。ご了承下さい。