衛星発射予告に茫然自失の日本 アメリカは計算の上での対応(下) | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

朝鮮外務省は代弁人談話を通じて「光明星3号」の発射と関連して「準備作業が本格的な実働段階に入った」と発表しました。朝鮮の衛星発射問題と関連した日本のマスメディアのランチキ騒ぎが収まる気配を見せてはいません。いい加減吐き気をもよおす下劣さ、低質さにはほとほとあきれかえるばかりです(マスメディアの用語法に従えば「包丁」を「刀」と呼ばなければなりません)が、今回も指摘せざるを得ません。


なぜなら,こうした無分別なやくざの嫌がらせと寸分違わない、低脳な言動が今後の日朝関係に及ぼす影響を考えた場合,ある種の危機さを考えざるを得ないからです。
非難はその正確さ,正当性,妥当性があってこそ意味を持つものであって,納得できる理由のない非難は敵意と差別の表れに過ぎないからです。


日本のマスメディアは朝鮮の主張の非合理性を根拠付けるためにロシアや,中国など朝鮮の友好国までが賛成していないことを強調しようとします。自らの主張の合理性を自ら立証できないので朝鮮の友好国さえが納得していないことを強調することで、正当化しようとするわけです。そこで管理人も(同じ土俵に登るつもりはありまあせんが、経を付けるのが趣味の方々のために)ロシアや,中国の態度を調べてみましたが、なんと日本のマスメディアが紹介していない、重要な指摘を見つけました。浅井基文さんのコラムに載ったたものです。

中国の人民日報の国際版とも言って良い「環球時報」20日付は、「朝鮮に誠意を見せられる機会を与えなければならない」との記事の中で、「米・日・南朝鮮の反応が激烈な原因は、朝鮮がどんな衛星を打ち上げるかというところにあるのではなく、その運搬機具である「銀河3」ロケットにある。」とし、次のように書いています。(翻訳は浅井による)


…彼らの論理によれば、ロケットは弾道ミサイルの原理と同じで、いつでも弾道ミサイルに改良することができる。しかし、現在、朝鮮が打ち上げるのが衛星ではないということを証明できる何らの根拠はない。朝鮮は、今回、打ち上げるのが衛星であるということを証明するために権威ある外国専門家と記者が打ち上げの現場を参観するように招請すると発表した。 他の角度から見ると、これは朝鮮の誠意を反映したものである
朝鮮が、自国が打ち上げるものが確実に衛星であるということを証明した場合、国連「決議」1874号を口実にして米・日・南朝鮮が加えるようになる圧力には説得力がない。それは、朝鮮が国連の「決議」を受け入れていないばかりか、国連も主権国家が自国の領土で地球観測衛星を打ち上げることを制限するいかなる規定も持っていないからである。」
現状況で重要なのは、米国が朝米2.29合意を履行しなければならないという点だ。 2009年4月5日朝鮮が光明星2号を打ち上げた時、「朝鮮が人工衛星だと主張したが... 誰が何と言おうが私たちはそれがミサイルだと判断した」と横車を働かせたように、米国が万一、今回も朝鮮の衛星発射をミサイル発射と歪曲し情勢を緊張させるならば、朝米2.29合意は白紙化されるだろう。…


どうでしょうか。直接的表現はありませんが、この論旨は、朝鮮の衛星発射予告に対する米日の主張がまったくもって身勝手な独りよがりなものであることを鋭くついています。とくに「誰が何といおうが私たちはそれがミサイルだと判断した」と言うアメリカの傲慢さ,身勝手さは通じないと言う事です。ところが日本のマスメディアではこうした指摘は何一つ紹介されません。もちろんそれは記者の判断に任されるものですが,その判断がアメリカの判断から自由でないという事は分かります。


言うまでも無く、宇宙空間の平和的開発と利用は、国際的に公認されている主権国家の合法的権利です。科学研究と経済発展を目的とする衛星の打ち上げは、決して特定の国にのみ限られている独占物ではありません。朝鮮の正当な衛星の打ち上げに言いがかりをつけているのは、挑発に目的を置いた陰険かつ故意の反平和的行為として反朝鮮敵視政策の延長だと考えるしかありません。


特に、米国と日本、韓国は誰それの衛星の打ち上げについて論じる体面もないはずです。宇宙空間に数多くの偵察衛星を打ち上げ、主権国家に対するスパイ行為を働いている米国や軍事大国化を夢見ながら偵察衛星の打ち上げと独自の宇宙偵察システムの樹立へと疾走している日本、恥ずかしいことに2回にわたって外部からの全面的な支援を受けながら衛星の打ち上げを試みたが失敗した韓国は、朝鮮の衛星打ち上げについて非難する名分も体面もありません。


もちろん日本や特に韓国には嫉妬があるかも知れませんが。どだいアメリカがOKした国だけが衛星を発射することが出来るなんてことをいったい誰が認めたというのでしょうか。日本と韓国はそれを無条件に受け入れているようですが。


朝鮮の衛星発射予告に対するこうした不合理かつ手前勝手な,傲慢な姿勢が受け入れられなくなった今、韓国では別な論理を持ち出しています。20日付の韓国紙、朝鮮日報は、韓国政府筋の話として「地球観測衛星」の打ち上げを朝鮮が予告したことについて、打ち上げの関連費用が計約8億5千万ドル(約709億円)と推定されると報じたと言うのがそれです。この記事によると 8億5千万ドルは今年2月の相場でコメ141万トンに相当すると言います。言いたいことは国民を満足に食わせられないでいるくせに衛星発射などはもってのほかだというのでしょう。日本では産経新聞が報道し、例の黒田なにがしが,「ご丁寧」にも解説まで付け加えています。


ところがこの記事が韓国政府の意図に従ったものであることは文言からも読み取れます。つまり、産経新聞(と黒田記者)もその片棒を担いだと言う事になります。韓国政府が大っぴらに宣伝できないことをメスコミを使ってやろうとしたと言う事であり、産経がそれに積極的に呼応したと言うことになりますか。


ところでこの記事には決定的な問題があります。一言で言って衛星発射がどれだけの費用がかかろうと、その技術が完成した暁にそれが生み出す経済的効果は、発射にかかった費用の何十倍にもなるという具体的事実をまったく無視していると言うことです。例えば産経の記事では衛星発射が事業として成り立っている現実をまったく無視しているのです。実際宇宙開発にかかる費用はまさしく天文学的です。アメリカのアポロ計画には1350億ドルが投入され,サターンロケット開発だけでも460億ドルもかかりました。しかし、これによってNASAの経済効果を見ると雇用は40万人に達し,2万社の新たな会社が生まれました。


韓国の例を取れば通信海洋気象衛星の経済効果は気象観測と通信分野でそれぞれ5,894億ウォンと157億ウォン、(大宇経済研究所、2000年)通信衛星で3兆8500億ウォン(情報逓信部、1999年)に達しています。つまり3558億ウォンの研究開発費を使って4兆4551億ウォン、つまり12倍以上の経済効果を得ているというわけです。


次に衛星発射ロケットの開発を見てみましょう。やはり韓国の例ですが、KSLV-1の場合、産業研究員の研究によれば開発費用が5,100億ウォンに達すると言いますが、その経済効果は 直接的産業効果,及び間接的原産地効果、外国人投資効果、技術波及・蓄積効果などを考えると最少で1兆8200億ウォンから最大3兆ウォンで、つまり開発の予想金額5,100億ウォンの最大6倍の規模になると言います。


また衛星発射体(運搬用ロケット)の開発はGDPを9億ドル上げるという研究結果もあります。商業的に見れば費用対効果は7から12倍以上の経済効果を生むというのが韓国の専門家らの見解です。さらに実用衛星発射の成功によって、打ち上げた運搬ロケットの性能が公認されたときに、その運搬ロケットを商業的に利用して発射サービスを行った場合の全市場規模は実に32億ドルに達するとも言われています。


このように計量化できる価値以外にも大気圏を通過する素材開発が材料工学に及ぼす影響、DBMなど宇宙通信技術などが実際生活に適用されたときの効果、エンジンの開発が自動車産業に及ぼす効果など、動員される先端科学技術が影響を及ぼさない分野はほとんど無く、気候予測や水面調査、衛星地図、宇宙空間での実験など科学技術分野にも繋がるものです。つまり無限大の経済的効果を生むことになります。要するに経済的視点から見ても、衛星の開発、発射は魅力的な事業だという事です。


もちろん貨幣の価値も経済構造も違うので朝鮮の場合の具体的な数値がどうなるかは判然としませんが、少なくとも最小限、開発費用の5倍以上の経済的利益を生み出すことははっきりしています。これは韓国政府がリークした情報に基づいた産経新聞の記事がまったく何も知らないアホ記者の戯言に過ぎないことをよく教えてくれます。

開発費用云々問題は事の本筋から話題をそらし,けちを付けるだけのただの遠吠えでしか無いのです。


それよりも深刻な問題はアメリカが現在の姿勢のように朝米2.29合意を白紙化し、光明星3号打ち上げに是非を論じ、朝米2.29合意を無効にすれば、間違いなく深刻な事態が訪れるという事です。


アメリカが、誰がなんと言おうが「俺がそう判断したのだから黙れ」という傲慢かつ威嚇的態度でこの問題を引き続き振りかざして、「制裁」を強化するようなことでもしたら朝鮮も黙ってはいないでしょう。同じような状況の時、朝鮮はつねに一層強力な措置を取ってアメリカを追い込みました。今回も例に漏れないでしょう。


その暁には人工衛星の発射ではなく実際に長距離弾道ミサイル発射の実践的訓練を実施したり,新型原子力兵器の実験を行うなど、より刺激的な対抗措置を取るかも知れません。しかしそれは平和的な衛星発射問題を、愚劣で手前勝手な傲慢とネジが数本抜けた頭で考え出したであろう,対朝鮮威嚇に対する正当な報復であり、主張なのです。


アメリカも日本もしてはいけないこと,やるべきではなかったことを顔を青ざめながら恐る恐る実行したことを悔やむほかありません。
米日韓の言動は朝鮮が衛星発射計画を延期するか,変更して欲しいという淡い期待があってのことだろうと思いますが、それは浅はかな考えです。


朝鮮は120%計画通りに衛星を発射するでしょう。そして結局世界は、それが平和的な地球観測衛星の発射であったことを認めることになるでしょう。果たしてそのとき米日韓はどんな顔をして朝鮮との交渉に臨もうとするのでしょうか。日本はさらに遠くなったと言うほかありません。オバマ政権も一層不安定になるでしょう。李明博政権は瓦解確定的です。日本の民主党政権は、今後数ヶ月持つのか一層危うくなるでしょう。もちろん日本に至っては毎度のことでなれていますので、そう大きな打撃にはならないと思いますが、ただアメリカに従うだけの軽い政権に過ぎないるという印象と共に自分の顔を持たない,持てない存在だという印象を世界はより深く刻むことになるでしょう。