「朝鮮崩壊論」 根拠は場末のメニュー  | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

昨日、友人の家で週刊現代を見かけました。そこには金正日国防委員長の逝去後、金正恩体制に移った朝鮮が崩壊に向かっているといった記事が特集並みに扱われていました。実は本当の偶然ですが,その友人宅に向かう電車の中で韓国の極東問題研究所が送ってくれる「韓国と国際政治」という季刊雑誌-これには一線級学者らの論文が掲載されているのですが-の巻頭論文「第二版急変事態論に対する批判的検討」を途中まで読んでいたのです。


論文の筆者は韓国での北朝鮮研究のパイオニアを自称する極東問題研究所の所長で、アメリカで社会学の博士号を取っているイ・スフンと言う韓国有数の北朝鮮問題研究家です。私事ですが、前任の所長のユン・テギュ氏とは長年の友達で、いまは慶南大学校の学長です。これを知らせるのは極東問題研究所のバリューを知ってもらうためです。また極東問題研究所の多くの先生方は北韓大学院大学の教授を兼任しています。


週間現代の特集が偶然に読んでいる途中の論文と同じ問題を扱っていたので、思わず、その記事に眼を通しました。いや実を言うと友人の奥方が,ある部分を音読して私に意見を求めたりしたことがあって,致し方なく目を通したわけですが、筆者の名は明かさずの無署名記事です。適当なことが書けるスタンスです。ただ毎日新聞の鈴木琢磨記者と佐藤優の対談も載っていたので、興味をそそられたのは確かです。


ところが読んでいくうちにそのくだらなさに吐き気を覚え、すぐに読むのを止めました。鈴木琢磨記者は毎日新聞きっての朝鮮通で、かれもまた「朝鮮崩壊間近論」の提唱者です。何も判らない佐藤氏は相槌を打つだけです。


そこで問題になるのは無署名記事と鈴木琢磨記者の論述となりますが、その内容たるやさんざんでした。極東問題研究所所長の論文の読み残しをすぐに読んだのですが、その読後感は、言うまでも無く日本の朝鮮問題専門家らの眼はどこまで腐っているのか,彼らには自己反省も,自分が書いたことや主張したことに対して責任を負うという最小限のモラルも持ち合わせない俗物中の俗物なのかという思いだけです。


イ・スフン博士は「急変事態論(早期崩壊論の変種)」がどうして生まれ、どうやって今日まで命脈を保つ事が出来たかと言う問題意識を持って論文を書いています。その文章は冷静で論理的,学問的根拠を持って、淡々と書かれており,世に言うイエロー・ジャーナリズムとははっきりと一線を画すものでした。日本ではついぞ見られない学者としての良心を守るという意識がはっきりと読み取れます。


彼は韓国における「急変事態論」をニューライト系列の専門家らが雑誌「時代精神」(日本で言えばフジ・産経グループの「正論」にあたるでしょうか)を通じて流布されている「急変事態論」(代表アン・ビョンジック教授)、金泳三政権に由来するNDI(21世紀国家発展研究院)が主導して編纂した単行本の「北韓の急変事態と我々の対応」の執筆陣(パク・グァニョン他),韓半島先進化財団のパク・セイル理事長が「創造的世界化論;大韓民国世界化戦略」の中で主張する「先進化統一論」に見る「急変事態論」(より積極的で攻勢的な「統一論」が必要であり、そのためにも「急変事態に対備しなければならない」)とする主張の3つの範疇に分けています。


そしてこうした「急変事態論」の根底には、10年にわたった民主政権による対北政策に対する敵意があり(つまり感情論)、それにのっとって(支配されて)個別的には①「北韓体制」の性格上、改革・開放のようなものは不可能だという認識、②核と大量殺傷兵器の保有によってもたらされたジレンマ、③実質的に崩壊した経済と自力的な回生が不可能であり、外部からの支援に依拠する延命と言う認識④統治ステムの移管とそれに連なる内部権力闘争の可能性⑤政治社会的不安定による大規模騒擾や蜂起の可能性⑥指導者の健康問題と後継者問題に注目した論述などに腑分けしています。


イ博士が指摘したのは日本でもタンゴル・メニュー(どの店デモ置いている売れ筋のメニュー。常連客のメニュー)として登場していることはすぐにわかります。週刊朝日の特集がまさにそれでした。


しかしイ・博士は以上の全てを検討し、それらが朝鮮(北)をまったく知らない素人の夢物語であると切って捨てます(日本ではプラス悪意)。そして論文を通じてこれらの「緊急事態論」が2MB政権の対北政策に基づいたものであり、脱北者らの証言もそれに利用するために脚色までされていると指摘します。


日本に居る管理人としては週刊朝日のこともあり、どうしてもこうしたことを日本の現状にダブらせてしまいます。日本の朝鮮問題専門家らにはイ博士が示してくれた最小限の道徳や学者としての良心もないのでしょうか。


重村なにがしがTVで「自分が随分とバッシングされた」と訴えていたと聞きましたが、それを聞いて2度あきれかえりました。彼などはバッシングされて当然であって、名門早稲田大学から追放されてもよい人物です。管理人などは彼を再度TVに登場させたTV局の神経を疑いました。度胸があるのか馬鹿なのか判断に困ります。他にも40年以上も朝鮮に行ったことが無い輩が涼しい顔して見て来たようなことを平気で喋り捲るとは視聴者をだましているのも同じです。もちろん最初から、イ・博士のような人物と比較するのが間違ってはいるのですが。


ところが彼らが健在でいられるのは政治の庇護を受けているからなのでしょう。そしてそれをマスコミが二重に防御しています。政府にとっても、マスコミにとっても彼らは恰好の、そして逆らうことを知らぬ忠実なデマゴーグなのです。彼らに拠ってアメリカのそして日本政府の「朝鮮悪魔」化キャンペーンは大いに成功し、未だにそれは続いています。1997年の12月頃のことだったと思いますが(記憶がはっきりしません)橋本竜太郎元首相が「北朝鮮は来年はもう潰れるでしょう」と確信を持って吐いたことが記憶に残っています。しかし残念ながら彼は朝鮮が潰れる前に亡くなってしまいました。それから(橋龍死後)10年以上も立ったでしょうが、今朝鮮は潰れるどころかいけいけどんどんのようです