アメリカ新軍事戦略はアメリカ衰退の証 | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

オバマ米大統領が5日午前(日本時間6日未明)、国防費の削減にあわせた新しい軍事戦略を発表しました。北東アジアと中東での二つの大規模な地域紛争に同時に対処するこれまでの「2正面戦略」に必要な戦力は維持せず、一つの全面戦争に対処し,他は外交的手段で解消するという言わば2正面戦略を放棄し「1.5正面戦略」をとる事を表明したのです。アフガニスタンなどで泥沼化した戦争が軍事費増大につながった反省から、長期的な軍事作戦を前提とした態勢も取らないといいます。


一方で、中国の軍事的脅威が増すアジア太平洋地域の戦力は増強するとしています。デンプシー統合参謀本部議長は「これは衰退していく軍隊の戦略ではない」と強調していますがどう見ても負け犬の当吠えのように聞こえてきます。


管理人はこの戦略変更の内容よりも(もちろんぞれも重要ですが)、何よりもこうした戦略変更の背景に注意を促したいと思います。


その背景のなかでも最も注目すべき事はやはり軍事費削減の圧力を上げられます。一言で言うと米軍部は2020年までに総額9500億ドルの軍事費を削減しなければならないという危機に見舞われています。もちろん財政赤字を埋める他の方法がないためです。
具体的にどのような削減が起きるかについてはすでに米連邦下院軍事小委員会所属の共和党議員補佐官がアメリカの政治専門誌「ポリティコ」に寄せた文章であきらかにしています。


http://ameblo.jp/khbong/entry-11049779119.html


それによると
①米地上軍を14万3000人削減。これによって現在100ある地上軍機動部隊は60-70に減る
②海兵隊は5万7千人減る。これにより海外に前進配置した海兵隊上陸戦部隊は解体するほかない
③米海軍艦艇のうち62隻を削減。これにより空母強襲団は現在の11個から9に減る
④空軍戦闘機478機の削減。戦略爆撃機34機、戦略及び戦術輸送機157機削減。こうなると空軍は3分の1が縮小されることになる。F35のような最新鋭戦闘機の開発も中断するほかなくなる。
⑤核弾頭数は大幅に減り新型核弾頭などの開発も中断される。
⑥国防部の民間人力が減り、軍需産業部門の失業者が一気に増える。ということです。


この軍備削減は選択の問題ではなく、実現しなければアメリカ本体が危なくなる是非とも実現しなければならない必須の要求です。
もちろんイラク戦争やアフガニスタン戦争の手痛い付けが回ってきたわけですが、問題はこうした削減要求に応えながら、いかにして軍事的覇権を維持するかという、これまでの世界的軍事覇権主義を必要に追及するかという悩みに対する答えがこれだと言うことです。

事実、軍事的覇権を可能にしてきた財政的基盤はもう再生できない状態であり、これ以上無理すればアメリカ本体がどうしようもない泥沼に一層深くはまり込むことになるという、まさにジレンマからの脱出のための他にどうしようもない決定なのです。


しかし全人口の15%、4620万人の貧困層(アメリカ人口統計局が昨年11月13日(現地時間)に発表した統計)、フードスタンプがなければ飢えるしかない4400万人(全人口の13%。アメリカ農林部の資料。2011年3月現在。成人7-8人中一人か児童4人中の一人がフードスタンプで飢えをなんとかしのいでいるということ)と言った状況の改善は容易ではありません。


ノーベル経済学賞を受賞した経済学者ハンス・スティグリッツが「1%の、1%による,1%のための」今のアメリカの経済体制が是正される見込みはまったくありません。つまり軍事費削減を強要しているアメリカの財政的困窮は改善される見込みは全くないのであり、それは軍備削減の圧力がこの後も一層強まるしかないと言うことを示しています。つまり、軍事費削減の圧力の背景に変化はないと言うことです。昨年12月1日に始まった、米経済・金融の象徴であるニューヨーク・ウォール街で始まった「ウオール街を占領しよう」のスローガンを掲げた大衆抗議闘争が,同月6日、米政治の中心地・首都ワシントンに飛び火し、反戦運動の色彩を帯びながら、全米に広がって言ったことを忘れるべきではありません。


要するに限界に来たと言うことです。そうでなければサンクチュリアと言われてきたタブーの領域にメスを入れることなどあり得ません。それがいまのアメリカの姿なのです。スティグリッツ博士は最早アメリカには「機会均等」もなければ「チャンス」などもないとはっきり言っていますが、管理人は元々そんなものはなかったというべきだと思っています。それらは目に映る見かけの「優雅さ」や造られた「奇跡」によって醸し出されたされてきた、ただの幻想でしかなかったと言うべきだと思っています。


第2にそれにしても今回の新軍事戦略も多分にして、希望的判断に基づいた手前味噌に過ぎないと言うべきです。産経によれば「米中枢同時テロ後に肥大した米軍をスリム化する一方、ハイテク兵器の駆使などで機動性や即応性を維持、"世界最強"であり続けるとの方針を明確にした」といいますが、イラクやイランでの経験でハイテク兵器の信頼性は急激に低下しており(最近では米ステルス無人偵察機がイランによって強制着陸させられ,米国のハイテク兵器に対する信頼度に疑問を抱かせました。)、アフガン戦争では米軍の機動性や即応性のレベルに対する疑問を持たせています。


ましてアメリカが想定している戦争とはイランとイスラエル、朝鮮半島の南北ですが、イランも朝鮮も共に軍事力は強大で、イラクやアフガンとは比較になりません。


しかもイランのことはよくわかりませんが朝鮮の戦争戦略は速戦即決、短期決戦を旨としています。米軍が介入するかどうか迷っているうちか、あるいはまだ戦争介入準備の状態の内に戦争は最終局面に向っている状態なのです。他方で対イラン戦は拡大まっ最中でしょう。両国の戦争戦略が違うのですから片方に全面介入し,片方は外交的手段による「抑止」の方法で米国が両方で「勝利」するなど非現実的な夢想に過ぎません。


要するに「1.5正面戦略」などというものは軍備削減を合理化しつつ、アメリカの軍事的覇権は揺るがないことをアピールするための方便に過ぎないということです。


より重要な問題はこの新軍事戦略が下位同盟国に対する軍事的負担の増強を必然としている点です。韓国も日本も、この新軍事戦略が自国の対米軍事支援の内容や性格の変質をもたらしうるという点を警戒すべきでしょう。何よりも駐留米軍の維持費の一層の負担を要求するであろうし、一層の兵器の購入圧力に悩まされ続けるでしょう。


自分で解決できないことを他人に押しつけるやり方です。しかし日本も、骨の髄まで親米であるMB政権も、それをはね除けることは出来ないでしょう。なぜならこの両国はアメリカの「北朝鮮悪魔化」のキャンペーンに毒され、自前の対朝鮮政策を持てないでいるからです。アメリカのサングラスをかけるのではなく自前のめがねでしっかりと現実を見る必要に直面している事を忘れるべからずです。