延坪島砲撃 どう見るか、どうなるか?① | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

案の定、昨日のTVニュースは北朝鮮の延坪島への砲撃一色でした。2名の民間人が死亡したことから、事態は一層深刻になりました。この2名は韓国海兵隊基地の工事に出ていた人々で、海兵隊基地を狙った砲撃の巻き添えになった模様です。遺憾な結果をもたらしました。これによって北朝鮮非難が一層強まっているわけですが、TV報道や、TVに出演している専門家と言われる人々の話からは、なぜこうした事態が起きたのかと言う最も大事な問題に対する意見を聞くことはできませんでした。TV番組自体がそれを要求していなかったのでしょう。いつもの通りです。


あるTV番組では北朝鮮が無差別に延坪島の住民地域に砲撃を加えたという韓国軍の発表をそのまま受けて報道していましたが、韓国のインターネット新聞であるプレシアンによれば、破壊された建物が旧保安隊の施設であったことや弾薬庫を狙ったものであったことがわかっています。なので管理人は無差別と言う言葉を使うのは控えたいと思います。


http://www.pressian.com/article/article.asp?article_num=60101124145034&section=03


今日のTVニュースのいくつかは、砲撃前、もっと正確に言えば韓国軍が同地域で軍事演習を行う前から北朝鮮が強く警告を行っていたことについて報道していましたが、韓国軍がそれを無視して北側の領海に向けて砲射撃を強行したことについては避けていました。韓国では国会議員が、北朝鮮の警告を無視して北側に向けて砲射撃を行ったのかどうか調べる必要があるという意見も出ていますが、それも報道されませんでした。また当時同海域で北を攻撃するための軍事演習が行われていたことについては一部のTVが報道しただけでした。もちろん演習の性格や危険な内容についての指摘はありません。総じて突如として北側が一方的に攻撃してきたということになっています。


南側の発表だけに依存しているのでそうなるしかないと思います。しかし、報道人である以上、一層踏み込んだ分析や視角があってもいいのではないでしょうか。


マスコミがこうであるので一般の視聴者も同じような感覚で判断しているようです。そこで昨日のブログで一応書いたので、今回はウラン濃縮問題について再度踏み込んだ分析をしようと思っていたのを取りやめ、再度延坪島砲撃問題についって書くことにしました。


朝鮮西海での軍事衝突の可能性については管理人が何度も指摘してきたとおりです。このままではいつかはこうした事態が生じるかも、と思っていたのですが、とうとう憂いていた事態が生じてしまいました。まことに残念です。


それにしても韓国政府の動きは理解しがたい面が多すぎます。いくつかを並べてみます。

①当初、事件当時にこの海域で「護国」演習が行われており、延坪島での北側に向けた砲射撃訓練もその一環であるといっていた金泰栄国防長官がその日の夕刻には「ただの通常の射撃訓練」だったと前言を翻したのか、

②当初「拡戦しないように」と言っていた李明博大統領が、なぜ「断固とした対応を」→「北のミサイル基地打撃」と時間がたつにつれ強硬な姿勢を見せており、ひいては「二度と挑発ができないような莫大な応懲」、「交戦守則を超えた対応」などといった、まさに全面戦争を念頭に置いた発言までしているのか、

③延坪島事態が発生したその日の朝刊では、国務総理室の公職倫理支援官室が社会の各界各層の人士らの動向を幅広く把握した痕跡が明瞭な証拠品が暴露され、政権が根こそぎに揺れ動く可能性まで生じてたが、それにあわせて事態が生じたのはまったくの偶然だったのか、

④何よりも韓国軍がなぜ北側の警告を無視して砲射撃訓練を強行したのか、などの点がまだ明らかにされていません。


これらの疑問については追々書いていくつもりですけれど、今回は事件を引き起こすことになった背景について指摘しようと思います。


実は2009年10月15日に、北朝鮮海軍司令部が朝鮮中央通信の報道を通じて、韓国側の海軍艦船は「漁船の取り締まりを口実に不法無法の北方限界線(NLL)を 守る」ために、先月中旬から、領海を継続的に侵犯していると主張しながら、「全く許せないものであり、決して見逃しはしないだろう」と強硬な主張を述べています。最高司令部ではなく直接の当事者である海軍司令部が出した最初の意思表明です。


海軍司令部は、「南朝鮮軍当局の韓国側の領海侵犯行為は、対立の火種を抱えているこの水域の情勢の緊張を人為的に加重させ、南北関係を再び悪化させるための計画的な策動の一環である」とし、西海で「第3の衝突」の可能性を取り上げた後、侵犯行為の停止を要求しました。司令部はまた、「警告後には行動が続くことを南朝鮮軍当局ははっきりと知らなければならない」と強調しました。海軍司令部によれば、韓国海軍が12日の1日だけでも10数回に渡って16隻の戦闘艦を侵犯させて「海上 衝突が起こるりうる危機一髪の事態が造成」されたし、「9月中旬から 階段式に拡大されてきたこのような軍事的挑発は、10月に至っては1日平均3~4回に達している」と指摘しています。


もちろんすでに以前からこの地域では2度(1999、2002年)にわたる「西海海戦」が起きており、北の海軍司令部の強い警告はこのような危険な海域を平和な海域にするためにも韓国側が挑発をやめるべきだと言ってきた経緯があります。


実は問題の海域を南北に切り裂いたNLLとはまったく非合法な境界線です。それは陸の軍事境界線に繋がった海上の軍事境界線でもありません。管理人は「再び西海を襲う軍事的緊張」と題して2009年の10月20日と、21日のブログで2度にわたりこのNLLについて書きました。


http://ameblo.jp/khbong/entry-10366536203.html
http://ameblo.jp/khbong/entry-10368848026.html


今回の事態は根源的にはこのNLL問題が解決されずにいることに端を発しています。したがってこの問題に対する正確な理解が要求されます。そしてこの問題が解決されない限り、同じような事態が再度生じることも覚悟しなければならないでしょう。


しかしより根本的な問題は南北が強く敵対し、全般的に戦争の危機がさし迫っていることにあります。そしてこの敵対的関係は李明博政権が登場してから生じたことです。それ以前の政権(金大中、ノ・ムヒョン政権)の10年間を通して南北の軍事的緊張ははるかに和らぎ、和解と協力の流れが生まれ、人々は統一への希望を確信し始めました。そしてNLLの問題も解決の一歩手前まで接近したのです。しかし李明博政権が登場し、これらの流れはすべて遮断され、急速に対決と戦争の緊張が高まったのです。


地方選挙での敗北を免れようとでっち上げた「天安艦事件」の真相はその典型的な例でした。「天安艦」沈没の原因が北の魚雷攻撃にあると言うのがでっち上げであることはもはや明白です。すでに金大中、ノ・ムヒョン政権と交わした6・15.10.4南北共同宣言を破棄し、南北の和解と交流の道を閉ざしたことで北朝鮮はひどく怒っていたわけですが、この「天安艦」事件は北側の忍耐を限界にまで追い込みました。そしてこの事件を口実にアメリカを引き入れた軍事演習の強行は、北をして我慢しきれなくしたことは想像に難くないことです。それが延坪島砲撃の前の強硬な警告となって現れたのであり、ついには砲撃にまで発展したのではないでしょうか。


つまり延坪島への砲撃は突然のものではなく南北対立の長い歴史が積み重なって起きたものなのです。この事実に眼を向けずに事態を矮小化して扱うのはとても危険です。なぜなら今後に禍根を残すからです。何も解決されないまま、第2の、第3の延坪島事態が生まれる可能性を残すことになります。