再び西海を襲う軍事的緊張(下) | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

ところが1999年6月の第1次「西海交戦」のときに、国防部は、NLLが6.25当時の国連軍司令官の名をつけた「クラーク・ライン」を継承したものだと言い始めたのです。この「クラーク・ライン」とは1952年9月に発表されたもので、一種の海上封鎖ラインでありました。したがって、「如何なる形態でも相手側を封鎖することは出来ない」とした停戦協定違反であることから、停戦協定の当該条項にしたって、停戦協定発効後の53年8月には公式に撤廃されています。


ところがそれを継承していると言うのですから、NLLは明らかに停戦協定違反ということになります。国際法上もなんら合法的なものではないということです。


さらに南側はNLLは過去40年間、海上境界線としての効力と機能を果たしてきたのであり、国際法上の「実効性」と「凝固」の原則から見て、海上軍事境界線といえるとも主張しています。だが、軍事衝突がなかったことを持って「効力と機能を果たしてきた」とは言えず、また北側が軍事衝突を避けるために意図的に見逃してきたとしても、それをもって「効力」や「機能」を「果たしてきた」とか、国際法上の「実効性」や「凝固」といった言葉を持ち出せるものでもないでしょう。


北はこのような南側の一方的な主張を一度たりとも認めたことはありません。当然でしょう。自分で自分を規制するために勝手に作ったものを、北側に認めよと言うこと自体がおかしな話です。また勝手に決めたことを一方的に認めろと言うのでは話にはなりません。「凝固」や「実効性」も独りよがりな主張でしかないのです。


北側は第1次「西海交戦」後に、軍事衝突を避けるためにも、海上に休戦ラインを引く必要性を痛感し、「西海5島通港秩序」(北側の主張する海上休戦ラインからNLLに向かって伸びている、細い赤の点線で囲った海域の航行許可。なお西海5島は韓国側占有地)を示し、同時に陸上の休戦ライン(細い点線)を海上に延長する形の、海上休戦ライン(赤の太い点線)を提示し、2002年の第2次「西海交戦」後には、NLLや南側が主張するいわゆる「軍事緩衝地帯」は完全に停戦協定違反だと排撃しています。


北側はその後、2006年5月の第4回南北国防長官会議で、双方がこれまでの主張を捨て、新たに西海海上境界線問題を協議し、西海5島地域を共同漁労水域に設定しようという大胆な提案しましたが、NLLに固執する南側の主張が続き、結局、結論が出ないまま南側が李明博政権に変わり、今日に至っているのです。


2007年の10.4南北共同宣言は第3項と5項で、「西海平和協力特別地帯」を設置することで、NLLのために「対立と分断の海」となった西海を、「平和と強力の海」に変えようとの希望を与えましたが、6.15,10.4南北共同宣言を否定した李明博政権の敵対的対北政策によって、その希望は失われつつあり、再び西海はいつ軍事的衝突が起きてもおかしくないもっとも危険な地域となったのです。


そして13日から16日にかけて、アメリカの空母ジョージワシントンが史上初めて西海に侵入し、韓国海軍第2艦隊と合同で軍事演習を行っています。


1次、2次「西海交戦」は突発的に起きた限定的な武力衝突でしたが、全面的武力衝突に移行する可能性を秘めた危険なものでした。停戦後、もっとも大きな武力衝突で、第2次交戦では双方合わせて50人を越える死傷者を出しています。


その後、武力衝突は起きていませんが、西海は依然として深刻な危機を孕んだままです。昨年来、韓国は休戦協定の全面的違反となるPSIへの全面参加を決定し、韓国軍上層部の好戦的かつ挑発的発言が続いており、李明博政権の対北敵対政策が限度を越えるや、朝鮮人民軍総参謀部は今年1月17日のスポークスマン声明を通じて、NLLに言及しながら「わが武装力はこれを粉々に吹き飛ばすための全面対決態勢に突入することになろう」と極めて強硬な警告を行っています。北朝鮮としては当然の主張でしょう。


もちろんここ数ヶ月間、対話ムードが生まれるなど状況が好転してはいますが、ジョージワシントンの西海侵入など、対話の裏での軍事的圧力は続いています。対話には対話、制裁には核抑止力の強化という原則的立場を堅持している北朝鮮が、韓国海軍の軍事的挑発に、軍事的に対処する可能性を完全に否定することは出来ません。


起きてからでは遅すぎます。6.15、10.4共同宣言を生き返らせねばなりません。それだけが西海での危険な軍事衝突を防ぐ道なのです。.