「天安艦外交」の敗北、李明博政権レームダック化に加速(上) | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

体調を崩し、しばらくブログを休みました。特に眼の具合が良くなく、長い時間パソコンのモニターを見る事が出来ません。まだ本調子ではありませんが、先日(9日)、日本外国特派員協会が主催した記者会見に行ってきました。実は行くかどうか迷ったのですが、魚雷の残骸は「北朝鮮の攻撃はなかった」ことを示していることを科学的に立証したアメリカのジョン・ホプキンス大学のソ・ジェジョン教授とバージニア大のイ・スンホン物理学博士が出演するということであり、またゲスト側招待の枠が5~6名ほどにも拘らず、その一人として管理人を招待していただいたこともあり、無理を押して参加することにしました。


会見には130人ほどの記者らが参加し(約100人が外国特派員、残りは日本人記者)13名ほどが質問していました。両教授の記者会見内容は例の魚雷の残骸に関する問題をはじめ、合同調査団の調査結果全般にわたる矛盾、非科学性について追及したものですが、基本的には管理人がブログで指摘して来た内容です。ただ、記者会見では、合同調査団の結論はでっち上げに近く、データーが捏造されたことも考える必要があるという新たな問題提起があり、きわめて強烈なものでした。


この記者会見に参加した管理人の感想は「勝負あった!」と言うのが正直なところです。ソ、イ両博士の主張は安保理議長にも届けられていますので、少なからず影響を与えたことでしょう。両博士の学者としての良心に忠実たろうとする姿勢には頭が下がります。日本の「北朝鮮専門家」諸氏にも見習って欲しいものです。


この記者会見の内容はイギリスの科学雑誌ネイチャー誌をはじめVOA(アメリカの声)、AP、スター・アンド・ストライプなどにもその内容が掲載されました。ただしスター・アンド・ストライプ(米軍準機関紙)では、その後記事を削除したようで、いまはネットで見られません。やはり米軍としては面白くないのでしょう。さて日本のマスメディアはと言うと管理人の体調も思わしくなくしっかりと確認したわけではありませんが、一応9日のTBSニュースだけは確認できました。船橋主筆の稚拙な記事を載せた朝日は、主筆の書いた記事を疑問視せざるを得なくなるような記事を載せるわけには行かなかったようです。まさに「こん睡状態」に陥っているかのようです。


ところで記者会見が開かれたのはちょうど国連安保理で議長声明草案が公表された後でした。
議長声明草案を見たところ、曖昧さと不明瞭さが特徴といってもよいものでした。合同調査団の調査結果を認めたとも言えず、「攻撃」という文言を使いながらも攻撃の主体については一言半句もなく、逆に北朝鮮の主張も反映しています。


とくに「民軍合同調査団の調査結果に照らして(in view of)」という言い方をしていることに注目したいです。韓国側の合同調査団の調査結果の真偽判断を避けたと言うことです。 韓国政府が必死になって「全体的脈絡」を云々しているのも議長声明のあいまいさを否定できないからでしょう。


この草案はそのまま全会一致で可決されたのですが、結局安保理は判断を避けたとしか考えようがありません。そのため李明博政権の外交的敗北だというしかなく、李政権の受けた打撃は大きいと言わねばなりません。


もちろん李政権は必死にそれを認めず主張を押し通したと強弁していますが、安保理に提訴したときの発言、傾けた必死の努力などを考えるとそうした李政権の姿は虚しく映るだけです。李明博政権が安保理に望んだのは北朝鮮による攻撃であることを安保理が正式に認め、北朝鮮に謝罪させ、二度とこのような事態を起こさないことを認めさせる決議の採択だと公言してきました。アメリカも日本もそれを支持し、必死の努力を重ねてきたことは強調するまでもないでしょう。であれば、生まれでた議長声明はなんと距離の離れたものでしょう。敗北としか言いようがありません。


一方、クリントン米国務長官は「北朝鮮による韓国艦攻撃への安保理の非難」との認識を示したといいます。さらに「安保理の行動は、朝鮮半島問題の平和的解決は北朝鮮が根本的に態度を変えることによってのみ可能だという現実を強調した」と発言しました。国務省のトナー報道官代行も「議長声明によって我々は目的を果たした。国連安保理が一つの声でまとまったことに満足している」と述べています。ライス米国連大使は議長声明採択後、記者団に対し、「明確で適切な内容の声明案がまとまった」「北朝鮮首脳へのメッセージは極めて明白だ」と述べていますが、いったい議長声明のどこをどう読めばこうした評価が生まれるのかわかりません。彼らの独特な文法がそういう解釈をもたらしているのでしょうか。実にいぶかしい限りです。


韓国が問題を安保理に持ち込んだ後の事態の動きを追えば、こうした評価が言い逃れであり、極めて一人ヨガリであり、我田引水のそしりを受ける他ない事がよく分かるでしょう。はっきり言ってアメリカの安保理外交失敗を取り繕い、李明博政権をなだめるための言葉だとしか受取れません。


外信が議長声明についてどのように伝えているのかを見たところ、ロイターは「北朝鮮を明示的に非難するところまでは進めなかった」と書き、ワシントン・ポストは「北朝鮮を直接非難しはしなかった」と書いています。一方日本のメディアを見ると基本的にアメリカの評価をそのまま引用することで逃げ切ろうとしているようです。わけても11日付けの朝日の社説「安保理声明―北朝鮮への厳しい視線」は、まさに我田引水の極みであり、安保理議長声明を真面目に分析したとは到底言えないもので、朝日の質の低下をまざまざと見せ付けたようなものです。実際、北朝鮮の申善虎(シン・ソンホ)国連大使が記者団に、「素晴らしい外交的勝利」と語っているのはなぜなのかについてまったく考えていないようです。産経新聞が「日米韓の外交的勝利」と無邪気にはしゃいでいるのと50歩100歩でしょう。しかも10日の夕刊では、「『米韓の誤算を証明』 名指し回避の声明に北朝鮮満足感」と書いていたのですから、社内の意見が割れていると言うことなのでしょう。であれば「社説」としたのはいかがか、と言う疑問さえ生まれます。


11日のヤフージャパンのHPに人の唇を乳と間違えて吸い続ける子猫の動画が紹介されていますが、思わず日本のマスメディアを重ねてしまいました。勘違いに気がつかず、何時までも不毛の努力をする哀れな姿が、まさに日本のマスコミの現在を物語っているように思えたのです。いずれにせよ「天安艦」事件で見せた日本のマスメディアの姿は、どのような形であれなりふり構わず李明博政権にエールを送りたいということで終始一貫していたようです。


ソ・イ両教授の記者会見には朝日の記者が何人か来ていたようですが、何を聞いて帰ったのでしょう。また安保理議長声明に接した韓国の李明博政権の慌てぶりをどう理解しているのでしょうか。総じて日本のマスメディアのジャーナリズムは、まさに「死に体」状態だということを再度見せ付けるものでした。


さて、安保理の舞台は一応「泰山鳴動し鼠一匹」の惨めな姿をさらしながら幕を閉じたわけですが、いったいこの問題の出口は何処に見出せるのでしょうか。


北朝鮮、中国、アメリカは口をそろえるようにして6者会談について語っています。「6者会談を通じた朝鮮半島平和構築(あるいは停戦協定の遵守)と非核化実現」について語っているのです。


北朝鮮外務省は、代弁人の発言を通じて10日、「議長声明が朝鮮半島の懸案問題を適切な通路をによる直接対話と協商を再開し平和的に解決することを促すとしたことに留意する」とし、「われわれは平等な6者会談を通じて、平和協定締結と非核化を実現するための努力を一貫して傾けるだろう」と、立場を明らかにしています。「平等な6者会談」というくだりに注目したいです。


とくに国防委員会検閲団を受け入れることを再度要求しつつ、これが実現するまで「海底を含む事件現場を一切変更することなく保存すべき」だと主張しています。北側としては真相を完全に究明するまで手を緩めないとの立場をはっきりと示したわけです。日本のメディアは北朝鮮のこの堂々たる発言をどのように受け止めているのでしょうか。今後動きを見る上で見逃せない発言です。


9日に朝米将星級会談北側団長が、朝米将星級会談開催のための大佐級実務会談を7月13日に板門店で開区ことを米側に提案しているのは、北朝鮮のこうした徹底した姿勢の具体的な表れです。北側はその提案の中で「天安艦沈没事件の真相を客観的に、科学的に解明するのに助けとなるならば、会談の形式や方法についてこだわらない」と指摘しています。


つまり安保理から離れた今こそ当事者間で客観的、科学的真相調査がはじめられなければならないという主張ですが、同時に朝鮮半島平和体制をいかに構築するかという問題の表玄関に入ろうということでしょう。つまり北側は議長声明に続く出口を準備しているということです。


この出口については中国、米とも余り問題はないと思います。ただ米側としては自分がけしかけた韓国の李明博政権を説き伏せる作業が必要なので、たとえその出口が魅力的であろうとおいそれと入ることは出来ないでしょう。実際、李明博政権は議長声明に不満を堪えられず、6者会談について非常に消極的です。結局アメリカは自ら仕立てた道筋のために自らを窮地に追いやったということになるのでしょうか。


議長声明を受けた韓国はと言うと、いまや精神混乱状態でまともなことは考えつかないようです。これについては次回に書こうと思います。

(つづく)