一触即発の38度線とのんきな言説に酔う産経の黒田記者  | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

朝鮮人民軍総参謀部が12日、軍通信線による対南電話通知文の形式で、「重大布告」を発表し、「警告してきたように、全戦線で反共和国心理戦手段を跡形も無く清算するための全面的な軍事的打撃に進入することになる」と伝えました。心理戦の問題と関連した最後通牒と受取った方が良いでしょう。


総参謀部は韓国側が去る9日にMDL一帯に心理戦用拡声器の設置を完了したことを強く非難しながら、「我われの軍事的打撃は比例的原則による1対1の対応ではなくソウルの火の海までも考慮した無慈悲な軍事的打撃であることをしっかりと考える必要がある」と強調しています。必要ならば全面戦も辞さないという強烈な最終通告です。


北朝鮮は韓国が「天安艦」事件を口実に対北朝鮮心理を強化する動きを見せるや即刻「心理戦は6.15共同淵源とそれに基づく北南軍事的合意に対する露骨な破棄行為」であり、「戦争遂行上の基本作戦方式の一つであるという点から反共和国心理戦手段の設置は直接的宣戦布告」だと主張、即刻中止を申し入れてきました。


心理戦手段の設置は「天安艦」事件を「北の仕業」決め付けた後の4月24日に発表した、韓国の統一部、国防部、外交部次元での対北対抗措置のなかで言及したものであり、北朝鮮では当日、「朝鮮人民戦線中部地区司令官の名義で「心理戦手段を新たに設置した場合、それをなくするための直接照準撃破射撃が開始されるであろう」と警告しています。


しかし韓国側は観光客や地域住民の同地帯への出入りを規制しながら11カ所で心理戦手段の設置を強行してきました。今後30ヵ所にまで拡大する方針だと言います。どう見ても「天安艦」事件を利用した意図的な挑発としか考えられません。


12日の連合ニュースは、こうした北朝鮮の強硬な警告に対し韓国軍部は北朝鮮が撃破射撃を行った場合、軍は「比例性、十分性の原則を適用した交戦規則に従って北朝鮮軍が1発を発射すれば3発あるいはそれ以上の対応射撃を加える」構えだと言います。


心理戦手段の強行設置により全戦線でいっきに武力衝突が起きる可能性があるということです。
しかし日本のマスメディアはこうした過程を丹念に追わないまま12日の朝鮮人民軍総参謀部の「重大布告」だけを取り上げて報道しています。韓国軍が1発撃てば3発かそれ以上を撃つといったことも伝えていません。そのため多くの日本人には北朝鮮の「好戦性」のみが強く印象付けられた形です。韓国軍が「天安艦」事件を利用して南北軍事合意を一方的に破棄し、北朝鮮の非難を無視しながら心理戦手段を強行設置した事がこうした一発即発の軍事的緊張を醸し出しているという事が知られていません。


しかも「天安艦」事件が謀略である事がもはやはっきりしている以上、韓国軍の行動は明らかに計算づくであり、意図的に軍事的緊張を高め戦争を挑発する行為でしかないという他ありませんが、この点に目を向けた日本のマスゴミは一社もありません。


逆に産経の黒田記者のように奇妙なことを言う記者が現れました。12日付け産経の「緯度経度」を見ると、実に幼稚な楽天家であり、想像力の豊かな人物である事が良く分かります。黒田記者曰く「事件がナゾで真相が分かりにくい時、よく出る話に「それで誰がいちばん得をしたか考えれば真相が分かる」というのがある。
 左翼に愛用された理屈で、いわゆる“謀略史観”というのがそうだ。ソ連など共産圏が健在なころ、国際的な事件で「アメリカ帝国主義」を非難する際によく使われた」


なるほど「左翼に愛用された」「謀略史観」ですか。しかしそうした「謀略史観」が真実を伝えてきたことを、歴史は教えてくれていることを知らないようです。歴史を変えた様々な重大国際事件であるメイン・フラワー号撃沈事件(米西戦争の口実となった。アメリカはこの戦争でフイリピン、キューバの対スペイン独立闘争に干渉し、結局スペインの植民地であったキューバ、フィリピン、プエルトリコ、グアムなどを奪い取り自国の植民地とした)、ドイツ国会放火事件(ナチス権力確立の契機となった)、盧溝橋事件(日本が中国全面侵略の口実に使った)、アメリカが第2次世界大戦に参戦する口実となったドイツの潜水艦、Uボートによるイギリス商船撃沈事件(最近イギリスとアメリカが一緒になって仕組んだ罠だった事が明らかになっています)、トンキン湾事件(アメリカがベトナム戦争の全面拡大の口実に使った)、ブッシュのイラク侵略(軍事攻撃の正当性を主張した全ての理由が嘘であった)などが、全て謀略によって仕組まれたものであったことを指摘すれば十分でしょう。


黒田記者はさらに続けます。「ところで、韓国で先ごろ起きた哨戒艦撃沈事件は『なぜ北朝鮮が?』と、動機などに分かりにくいところがある。そこでこれに『誰がいちばん得をしたか?』論をあてはめてみると、面白い。結論は『いちばん得をしたのは北朝鮮』で『犯人はやはり北朝鮮』となって納得なのだ。
 そう思わせられたのは先週、行われた韓国の統一地方選挙が、まさに北朝鮮の思い通りの結果になったからだ」


この屁理屈には思わず笑ってしまいました。彼には歴史が極めて単純に見えるようです。調布の家を空けたまま韓国に住み着いている人物の言葉とはとても考えられません。彼は韓国にいて6・2地方選挙の推移をいったいどう見ていたのでしょうか。


韓国での6.2地方選挙が与党の惨敗となったことが、韓国民の意識に「天安艦」事件を利用した「北風」が決定的な影響を及ぼさなかったことを示していることは間違いありません。問題は平和を望んだから「北風」が通じなかったのではなく、その謀略があまりにも稚拙で、はじめから底が割れていたからに他ならないということです。韓国民の多くは最初から「北風」を信じていなかったのです。そして逆に選挙に「北風」を利用しようとしている李明博政権の思惑を敏感に感じ取り、そうした李政権の稚拙な謀略的行為に反発したのです。「平和」を望んだから(もちろんその要素もありますが)与党に顔を背けたのではなく、与党が「天安艦」事件を選挙に利用しようとしたその愚劣さに反発したのです。


さらに言えば韓国民が6.2地方選挙の結果を「選択」ではなく、李明博政権に対する「懲罰」だと捉えているのは4大江問題や、世宗市問題、スポンサー検事問題、そしてなによりも6.15ン朴共同宣言と10.4宣言に対する裏切り行為など李明博政権の施策に対する国民の反発、怒り、糾弾の表れだと考えているからに他なりません。李明博政権はこの懲罰から逃れるために「天安艦」事件を移用しようとしたことが民衆の最大の怒りを買うことになったというのが真相です。韓国に住みついている記者が、それもわからないとしたらもはやもうろくしたとしか言う他ないでしょう。見下し目線で無邪気に語れる日もそう長くはなさそうでうが、本人も考えた方が宜しいのではないでしょうか。


彼は韓国の民衆の中で悪名高き「朝中東」(売り上げは流石だが、その信用度は最低な)と呼ばれる中央3紙以外のインターネット新聞をまったく見ないのでしょう。見ていたらこんなのんきで的外れな記事を書いたり出来ないはずですから。彼の論調に従って、仮に「誰が一番得をしたか?」と考えると黒田記者も「得をした」仲間の一人に挙げられないでしょうか。「北朝鮮バッシング」という食い扶持を再び繋ぐことができたわけですから。


ちなみに韓国の知識人らは黒田記者とは違って、天安艦「事件」で得したのはアメリカだと一様に指摘していることを記しておきます。それを見抜けない日本のマスゴミの稚拙さ、危うさを再び考えざるを得ません。