オバマ政権「核体制報告」(NPR)、核廃絶への道途絶える(上) | 朝鮮問題深掘りすると?

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オバマ米政権は6日、今後5~10年の核政策指針となる「核戦略体制の見直し」(NPR)を発表しました。2002年以来の公表です。米政府高官によると、NPRは計80ページで、7項目、5つの方針で構成。ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)や国防総省などが(1)軍事政策(2)国際問題(3)軍備管理といった4つの作業グループに分かれて1年間で100回以上会議を開き、策定を進めたといいます。同高官は、冷戦後の過去2回の報告とは「似ても似つかぬ斬新な内容」だと自画自賛しています。


果たしてこの高官の言うように自画自賛できるものなのでしょうか。今回のNPRは核拡散防止条約(NPT)を順守する非核保有国に対し、自衛のためであっても核兵器を使用しない方針を柱としていると評価されています。米国が核兵器の使用で条件付きながら基準を示したのは初めてです。


しかしNPTは、非核保有国に対し核攻撃や核威嚇を行わないと言う担保があって初めて意味を持つものであり、非核保有国がNPTに加盟するのも、その条項に期待してのことです。管理人に言わせればアメリカが今回のNPRで初めて非核保有国に対する核攻撃を行わないことを各政策として明確にしたこと自体が、人をバカにしたことだと思っています。またそれまでのアメリカのNPTに加盟した非核保有国に対する核政策が、核攻撃のオプションを維持したものであったことを自ら告白したものでしかないということです。


 NPRについて、オバマ政権は、「大統領の核兵器なき世界の実現に向けた概要」と位置づけました。そして(1)核拡散と核テロの防止(2)核兵器の役割低下(3)核削減の中での抑止力と安定の維持(4)地域的な抑止力と同盟国防衛の強化(5)安全確保と効果的な核管理-の5つの方針を示しています。その内容は ブッシュ政権の核体制とは随分と違っています。「大きな転換」だと言羽陽かもあります。


しかし曖昧さは相変わらず残っています。例えば核攻撃以外のあらゆる脅威は、新型の通常兵器や既存の兵器を組み合わせることで十分対処できるとし、生物・化学兵器で米国が攻撃された場合、NPTを順守する国への核攻撃は行わないと言明していますが、ホワイトハウス高官によると、NPRでは、米国が生物・化学兵器で(核攻撃と同様の)壊滅的な損害を受ける可能性がある場合は、核兵器による反撃の余地を残すとしています。つまり核攻撃の可能性を完全に排除してはいないのです。これはNPRは核廃絶の道から遠く離れてしまったことを意味しています。


 それはNPRの発表に先立つ5日の、オバマ大統領の米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューを見てもわかります。彼はこのインタビューで、イランや北朝鮮などの核開発国は「例外」とし、核兵器の使用を制限しないとの見解を表明。NPRでも、核保有目的を核抑止力のみに限定する方針は見送られ、核先制攻撃のオプションは維持されたのです。


 また、オバマ米政権のNPRは、「国際社会において核不拡散体制を強化し、核兵器の役割を低下させると同時に、抑止力は維持する」という矛盾した内容となっています。一方で核兵器の役割を低下させると言いつつ、他方では核抑止力は維持すると言うのですから、つじつまが合いません。実はこのつじつまを合わせるために実に一年近くも論議を繰り返してきたわけですが、結局落ち着くところに落ち着いたとでも言いましょうか。どだい、核廃絶の意思がない以上、折衷案しか出ないことは初めからわかっていたことです。


ところでアメリカが核廃絶の道を果敢に進んでいけるのかと言うと、それもやはり不可能でしょう。なぜならそれはアメリカが覇権国家としての今の地位を自ら返上し、「普通の国家」にまい戻ると言うことを意味しており、それはアメリカがアメリカで亡くなることを意味するからです。今のアメリカは他国に対する内政干渉と武力干渉なしには存在できない帝国なのです。果たしてアメリカが今のアメリカを捨てることが出来るのでしょうか。


 NPRが、NPT加盟国であっても、核開発を続けるイランのほか、NPTからの脱退を宣言した北朝鮮に対しては核先制攻撃のオプションは破棄されず、それも含む「あらゆるオプション」を覚悟しなければならないと、核使用の余地を残す攻撃的な戦略を打ち出していることからもそれはわかります。


 NPRをめぐっては、昨年暮れ以降、核兵器の使用目的に関し、外国からの核攻撃の抑止に限定すべきだとするホワイトハウスと、核兵器による反撃の選択肢を幅広く残しておきたいとする国防総省の意見が対立、議会への提出が3回も延期されましたが、それが今回、イランや北朝鮮を例外としたことで双方が折り合った、つまり折衷した形を取ったと言うわけです。


5日、ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューでオバマ大統領は、「核保有国、非核保有国、核兵器開発中の国のいずれを問わず、世界中の国々は米国の核戦略を理解するべきだ」と強調しています。たとえ折衷案であっても、アメリカの核体制報告の要求に従えというわけです。もっと突き詰めて言うならば、アメリカの核の脅威から逃れたいのであれば、核開発を放棄し、NPTの義務を遵守せよ、そして通常兵器によるものであってもアメリカの世界政策に逆らってはならない、そうでないのであればアメリカの核先制攻撃を含む「あらゆるオプション」を覚悟すべきである、というわけなのです。


しかし、このNPRが、6者会談の9.19共同声明に完全に違反している点についてはまったく口を閉ざしていると言うことを見逃すわけには行きません。9.19共同声明には「アメリカは朝鮮半島に核兵器を配備しておらず、核兵器または在来式兵器による朝鮮民主主義人民共和国への攻撃または進行する意思が無いということを確認した」と言う条項があります。


ところで注目していただきたいのはこの9.19共同声明が、北朝鮮がNPTから脱退し、核保有を宣言した状況下で合意を見たものであるという点です。これから見てもオバマ政権が今回のNPRで北朝鮮に対する核先制攻撃オプションを維持したと言うことは、9.19共同声明をまったくないがしろにし、破棄したのと同じだと言えるでしょう。


もっともこれには北朝鮮がその後2度に渡る核実験を行ったことから、先制核攻撃は行わないという「消極的安全保障」提供の例外となると言う反論があるかもしれません。しかしそれはそれで北朝鮮を核兵器保有国だとは認めないというアメリカの方針とぶつかることになります。


つまり一貫性がないのです。自分に都合がよいように矛盾する主張をつき合わせてマッサージしたわけです。
と言うわけですので、NPRで5月に予定されているNPT再検討会議を無難に終えようと言うのはちょっと虫が良すぎるでしょう。すでにその前兆は現れ始めています。(つづく)

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