6者会談 事実を直視した現実的提案が望まれる(下) | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

第三に、いわゆる「北朝鮮急変」に具体的計画を持って対処するということですが、そうした幻想は捨てたほうが良いでしょう。もちろん各国の政府がそれを予想するのは勝手ですが、あまりにも我田引水的展望であり、非現実的です。


また中国は「北朝鮮急変」論について有り得ないことだと一蹴しています。もちろん個別的研究者の中にはこれを信用し、その可能性について論じる人もいますが、その論拠は主に推測と根拠のない「情報」に基づいた思い込みの類にすぎないものであって、とても科学的とはいえないものです。決して中国の党や政府のスタンスではないといっても良いでしょう。


実際このフォーラムに参加した北京大国際関係学院長は、明確に「北朝鮮急変」に対処する計画を持つことに反対しており、中国の立場がそうであることを明言しています。


第四に、北朝鮮に包括的に接近する必要があると言う主張ですが、それは必要でしょう。またそう有るべきです。しかし今、この包括的接近方が必要なのはアメリカであり、韓国や日本にとってはそれもできない状況だと言っても良いでしょう。


むろん韓国や日本が北朝鮮と話し合いたいと希望するのであれば、北朝鮮も動くでしょうが、両国の現在の対北朝鮮政策を見る限り、その望みも薄氷を踏むような状況にあるといわねばならないでしょう。それでもそれを実行しなければならないというのであれば日韓共に苦汁を飲むほかありません。苦境に立つ今の日韓両政府が、それに応じるとはとても思えません。


実際、はたして「拉致問題」を抱えている今の民主党政権に、北朝鮮に対して「包括的に接近」する度胸と信念を持つことが出来るのでしょうか。高校無償化問題と関連して、対象から朝鮮高校を外すことで北朝鮮に圧力を加えるべきだという中井氏の差別的で、あさっての方向を見た見当違いの発言を止められないこと一つを見ても、日本に対北「包括的接近」を望むのは難しいようです。


第五に、両国対話も6者会談の連続的過程として推進するという問題ですが、それは北朝鮮が6者会談の意義を再び見出すようになれば可能だと思いますが、そうでない限り舞台の脇でぶつぶつと呟く端役の言葉になってしまいます。


米朝二国間対話が6者会談の連続的過程として推進されるかどうかは、全的にアメリカの態度に掛かっています。なぜなら北朝鮮はいまや核問題を米朝対決の解消問題(平和協定の締結)として提起しており、それが受け入れられれば6者会談に復帰してもよいといっているからです。


これは実質上米中への注文だと言えますが(事実、北朝鮮と両国間対話が行われているのは米中だけです)、これには北朝鮮の態度が決定的な作用を及ぼすでしょう。つまり、北朝鮮のスタンスが問題になります。


要するに北朝鮮の6者会談に対する評価に係っている問題です。これと関連して現在北朝鮮が主張しているのは、6者会談の再開と米朝平和協定を巡る対話の開始の同時進行です。北朝鮮は核武装も結局は、米朝敵対関係が生み出したものだといっているので(そしてこれが客観的事実です)、この敵対関係が解消さえされれば、核問題は解決の糸口をしっかりと掴むことになるでしょう。つまり6者会談への復帰です。


要するに田中氏の主張は現実に何が問題となっているのか、その問題を解くためにはどのような対話が必要なのかを語っておらず、極めて抽象的な一般論で終わっているのです。田中氏が掲げた5原則にしても到底実現しそうにもありません。


最後に北朝鮮を核保有国として絶対に認めてはならないという意見に、リビア会長を始め発表者全員が賛同したということですが、米中からの参加者がそれを肯定するのは分かります。米中とも不平等で一方的なNPT体制の中で核保有国としての権利を甘受しているわけですから、それを覆すような事態を好むことはないでしょう。IAEA(国際原子力機構)もNPT体制保持のために作られたものであって、NPT体制の本質的不平等という非難から自由では有りません。


つまり現在の世界的核管理体制には核大国のエゴが貫通しているのです。北朝鮮を核保有国として認めるかどうかという問題は、この核大国のエゴを認めるのかどうかという問題とも繋がっていることを知るべきでしょう。


また北朝鮮を核保有国として認めることが、核拡散をもたらす危険性を指摘するのなら、その可能性がまったくないとは言えません。


何よりもまず日本で核武装の声が高まるでしょう。そして日本の核武装は、北朝鮮のときとは比べようもなく危険なこととして、全世界が固唾を呑むことになるでしょう。しかしそれは何よりも、まずもって日本の国内問題であり、そうした世論が沸いたとしても、それは日本のこれまでのあいまいな非核スタンスがもたらしたものであって、その責任を北朝鮮に擦り付けたからといって解決できる問題でもないでしょう。それはなによりも各国のスタンスの問題であるとすべき事柄です。


核拡散問題は本質的には、国家間不平等が歴然として存在しており、強国による弱小国あるいは弱小民族に対する主権侵害が、核を掲げた武力によって、あるいはその武力によって裏打ちされた外交によって強要されている国際関係が存在する限り、最終的に防ぐことは出来ないでしょう。いわゆる「超国家的主体」といわれる勢力も本をただせば結局は、そうした不平等な国際関係が生み出したものなのですから。


また核開発国に対するダブル・スタンダードが核拡散を促すことについてはあまりにも無関心ですが(田中氏の言う5原則からも漏れています)、これもまた核大国のエゴが貫かれることによって生じる問題です。こうした核大国のエゴをなくした上で、そして世界各国の平等な権利を認めた上で、非核を目指す核保有国のフォーラムを開いた方がよっぽど意義があるでしょう。何よりも核大国の真摯な、口だけではない反省が必要なのではないでしょうか。


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