朝鮮の統一阻む「米韓同盟未来ビジョン」 | 朝鮮問題深掘りすると?

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初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

米韓首脳会談については一度ブログでも扱ったが、その時に書けなかった重要な問題があるので、お知らせしたいと思う。

16日の米韓首脳会談で発表された「米韓同盟のための共同ビジョン(同盟未来ビジョン)」の中身が、北朝鮮にとって、いや民族の統一実現を望む南北両国民の願いにとって、極めて敵対的な内容になっているという点だ。そのため韓国の「南北共同宣言実践連帯」は19日、記者会見で米韓首脳会談を、「国家主権をアメリカに捧げた事大外交であり、同族を圧殺するために外勢にすがりつく反逆外交であり、韓半島の平和を破壊し緊張を高潮させた戦争外交」だと痛烈に非難している。

実際「拡大抑止」概念の採用、米韓同盟を本来の目的である「対北朝鮮からの韓国防衛」から、地域的には東アジア、ひいては世界に拡大する意志を示している点などの問題もあるが、民族統一を目指す南北の国民にとって決して見逃すのことが出来ない、重大な問題が含まれている。まずそれを直接扱った部分をそのまま書き写す。


「われわれは、同盟によって朝鮮半島の強固な平和を構築し、自由民主主義と市場経済の原則に立脚した平和統一に至るようにすることによって、朝鮮半島のあらゆる人々のためのより良い未来を建設していくことを目指す。われわれは北朝鮮の核兵器と現存する核プログラムの完全で検証可能な廃棄と、北朝鮮住民の基本的人権の尊重と増進のために協力していくだろう」


このフレーズの前は、米韓安保(軍事)同盟の確認と維持・強化、FTA問題など経済、貿易、投資、特に「民間宇宙協力の強化と原子力の平和的利用問題などが語られている。

この「同盟未来ビジョン」が、「自由民主主義と市場経済の原則に立脚した平和統一」を唄っているのは、明らかに二度に渡る南北首脳会議で合意を見た民族統一原則と政策、方法を完全に否定したことを意味する。


李明博大統領はこの6.15南北共同宣言と10.4南北共同宣言を反故にしようと躍起になったが、それを糾弾する韓国国民の強烈な反対と、北朝鮮の猛烈な追求を受けるたびに、自分はそれを否定してはおらず、ただ南北間にはそれ以外にもいくつかの合意があり、それらも全て含めて実行する必要がある、というように言い逃れようとしてきた。むろんそこには6.15と10.4の意味を著しく傷つけ、それが南北関係の大前提となるという真の意味を否定しよういう目論見があった。ただ、6.15と10.4を全面否定するといった言質は与えてこなかったのも事実だ。


だが、米韓同盟未来ビジョンは、完全にそれを公然化した。ビジョンで言う「自由民主主義と市場経済による統一」とは、まさに6.15宣言が直接的に否定したものであり、北朝鮮の体制転覆が実現しない限り不可能であり、したがってそれはカビの生えた「吸収統一」を再び目標に掲げたということを意味する。
それを米韓の「同盟未来ビジョン」としたのであるから、北朝鮮から見ればオバマ大統領は北朝鮮との対話や関係正常化のつもりは無いと言っているのと同じである。この文脈からすれば、オバマ政権の対北朝鮮政策はブッシュ化したと言ってもよいだろう。


この視点から省みると、北朝鮮の衛星打ち上げを宇宙の平和的利用のためではないと勝手に決めつけ、安保理議長声明をもって、北朝鮮には宇宙開発の自由はないとしたことが、たんにオバマ政権の対北朝鮮政策の準備不足や、優先順位が低いといったようなことでもたらした失敗などではなく、すでにそうした路線に乗っていたという見方も出来る。つまり、北朝鮮の体制を変更させるための圧力だということになる。
北朝鮮が安保理議長声明に怒りをぶつけ、核実験を強行するに至ったそのわけとして挙げて来た主張が、まさに正鵠を射ていたということになろう。


オバマのアメリカが6.15,10.4宣言を否定することで、他民族の内政に深く関与する姿勢にあることを明らかにしたことによって、北朝鮮の対米政策もこれに強く影響されることは明らかだ。すでに北朝鮮は対米関係の総決算の時期が来たと捉えている。北朝鮮による核兵器の貯蔵庫拡張、ICBMの高度化などは、すべてアメリカを対象にしているということだ。もはや簡単には妥協しないであろう。オバマ政権が北朝鮮に対話のシグナルを送っても、北朝鮮は「同盟未来ビジョン」の撤回を求めるのは必至であり、簡単には乗ってこないであろう。


「同盟未来ビジョン」は、オバマ大統領が越えなければならない壁をいっそう高いものにしてしまった。報道ではアメリカの偵察機が北朝鮮の船舶「カンナム号」を追跡しているという。だが北朝鮮がこんなこけおどしに乗るような国でないことは、これまでの経験ではっきりしている

。いずれアメリカは大きな代償を払うことになりそうだ。そのアメリカの「拡大核抑止」政策を進んで受け入れた李明博政権は同じく北朝鮮の対象となろう。核の傘の下にアメリカの対北朝鮮政策の右旋回を要求し続けてきた日本も同様である。