産経新聞は韓国労働運動にも敵対的 | 朝鮮問題深掘りすると?

朝鮮問題深掘りすると?

初老の徳さんが考える朝鮮半島関係報道の歪み、評論家、報道人の勉強不足を叱咤し、ステレオタイプを斬る。

日本のマスコミは実に嘆かわしい現状にあるが、お隣韓国の言論は、もはや言論とはいえない醜態を見せている。もちろん言論本来の使命に忠実であろうとする新聞(特にネット新聞)や雑誌もあり、それが韓国マスコミへの期待を担っているのだが、大手の新聞社3社(朝鮮日報、中央日報、東亜日報)の発行する新聞や月刊誌は、言論とは程遠い、権力の侍女、尖兵に成り下がっているというのが、韓国国民の一般的認識だ。

昨日、そうした韓国大手マスコミの体たらくを象徴するような記事が朝鮮日報に登場した。

朝鮮日報が大変な発見をしたのである。1面に載った「計画された竹やり」という記事がそれ。
「さる16日、大田都心で起きた不法暴力デモ現場で押収した竹棒のうち一部は事前に先を鋭く切った竹やりであったことが確認された」、「大田地方警察庁は19日、デモの現場で押収した竹棒620本のうち20余本ははじめから竹の先を鉈などで鋭く切ってある竹やりであった事実を確認、竹やりを作って配った人物を捜査中だと明かした」と報道した。

韓国では貨物労組連帯の、大韓通運(宅配)支部会委員長パク・チョンテ委員長が、長期にわたる労働争議の結果、勝ち取った解雇労働者78人の再就職に関する労使合意を、会社側が実行期限直前になって反故にし、労組弾圧を強化したことに対して抗議の自殺をしたのを契機に、急激に盛り上がった労働争議拡大の流れを受けて16日、大田で貨物労組連帯の組合員総会(15支部6000余人)が開かれ、全面ストライキを決議した後、全国労働者大会(全国から代表1万2千人参加)が開かれた。

大会では6月に予定していた全面ストライキが、貨物労組連帯の全面スト議決を受けて前倒し決行となる可能性が生まれたことを明らかにした。

これに対し警察武力は全国労働者大会参加者を上回る110個中隊1万4千人を動員し、無差別連行、殴打などを繰り返し多数の負傷者を出した。
警察は集会が終わって帰ろうと観光バスに乗っていた、忠南地域からの参加者たちが乗っていた観光バスが、東部警察署前に来るやバスごと全員連行したし、金湖タイヤ労働者らの乗った貸し切りバスは、高速道路のゲイトでバスごと連行された。近くの食堂で食事をしていた労働者らも無差別に連行された。

問題の「竹竿か竹槍か」は、この衝突の中で、警官の振り回す警棒(日本の警棒より一回り以上太く、長さも2倍以上だ)や防盾に対して、労働者が旗や横断幕用の竿を使用したことから生まれた。  

民主労総のイム・ソンギュ委員長は、20日CBSラジオの「キム・ヒョンジョンのニュースショー」に出演し、「警察に集会申告書を出した際に、旗や横断幕用の竹竿も申告した物品のリストに入っていた」と明かしている。つまり旗竿が警官が振り下ろす警防や防盾に対抗して使用されたのだが、大田警察庁は「竹を道路に叩いて竹槍を作った」と言い、民主労総側は竹竿が警察の防盾に当たり先が割れるなどして鋭くなったもの」と争っていたが、この時点では両者とも「偶発性の範囲内で」制限戦を繰り広げていた。まさにそんなときに朝鮮日報が、「計画された竹槍」を「確認」、報道したのであるから、事態の先行きを決める決定的な口実を提供したわけだ。
だが、韓国のインターネット新聞「民衆の声」が指摘しているように、朝鮮日報の報道が非難されないためには、次のような疑問に答えなければならない。
第一に、民主労総はなぜ「竹槍を作る計画」を、最初から620分の20、つまり3%に止めたのか?最初から竹槍を準備し、暴力デモを繰り広げるつもりだったのなら、なぜ竹槍の比率を3%に制限したのか?620本の竹竿のなかに目立たぬように混ぜることで「凶器」の存在を隠そうとしたのであろうか?しかしどう考えてもそんなことはありそうも無い。

だとしたら偶然に混じっていたのか?そう見たほうが現実的であろう。それ以外に考えられないのだ。
大体から民主労総の委員長によれば、竹竿は民主労総が業者に発注したもの。600本の竹竿を特別注文しながら、これとは別に20余本の竹やりを「別途注文」したというのは、考えにくい。では、購入段階で、竹やりが混じったのではなく、ほかの労働者がデモに参加しながら故意に竹槍を作った可能性はどうか。ありうると言えよう。
だが、若しそうだとしたら、朝鮮日報はそれを立証しなければならない。竹棒を竹槍に作る道具の鉈やナイフなどを一緒に示さなければならない。
しかし、実際にはその可能性を上程した瞬間に、ほかの推測が成り立つ。はじめは現場には竹竿しかなかったという推定、最初から主催者には竹槍を動員するつもりは無かったという推定が成立するのだ。
それよりももっと現実的な視点から見てみよう。竹を切るときは普通真横には切らず斜めに切る。そうしないと縦に割れてしまうからだ。もちろんノコギリであれば真横から切断することは出来る。だが、一般的には鉈などで斜めに切るのが普通だ。とくに業者に大量注文したものである。業者は農民に発注し、農民は竹を鉈などで切り倒す。当然切り口は斜め方向になり、必然的に竹槍のようになる。普通はさらにそれを加工して先のとがった部分を切り落とすのだ。
大量注文した竹竿に加工されなかった(先の尖った)竹竿が混じっていたと見るのが、普通であろう。
だが朝鮮日報では、これが「計画的な竹槍使用」という事になってしまうのだ。
労働者の生存権要求デモを、暴力的に鎮圧する「法的根拠」を、「暴力デモ」に求めるための警察のでっちあげだが、韓国最大の発行部数を誇る新聞が、それに全面的に協力したということだ。
もともと朝鮮新日報は、韓国国民がもっとも信用せず、権力の侍女に成り下がった言論の模範のような新聞だと言われている。日本の産経新聞とは「刎頚の友」のような関係だ。支局も互いに開設しあっている。
朝鮮日報にしてみれば、このでっち上げ記事は、権力への「ご奉仕記事」であり、「提灯持ち記事」である。それは韓国の大新聞・言論が、労働者の生存権闘争弾圧の、最前線に立っていることを示していることでもある。
はたしてこれをもって言論と言えるのであろうか。
大事なことは日本における北朝鮮報道や、韓国報道の圧倒的部分が、このような韓国紙の受け売りに終始しているという、情けない現実があるということだ。
例えば、5.20 18:36のMNS産経は、「韓国政府、都心での大規模集会不許可の方針」という記事で、国民の集会、デモの自由を奪う、ファッショ的措置をとることになった原因と関連して、「今月16日に韓国中西部・大田市で開催された全国労働者大会では竹やりを持ってデモが繰り広げられ、李明博大統領は『韓国のイメージが大きく損なわれた』と非難した。」と書いている。

まさに阿吽の呼吸というべきだが、この記事の「竹やりを持ってデモ」というくだりは、朝鮮日報に輪をかけた書き方だ。わずか3%が、全てに遁甲してしまっているのである。少しでも言論人としての良心のかけらがあるのなら、せいぜい「なかには竹やりも」と書くべきであっただろう。センセーショナリズムを追ったのか、それともそんな論理的思考が苦手なのか。どちらにしても記者としては問題がありそうだ。