4日後、結局熊谷でもケースは見つからなかった。手紙を預かっている手前、あまりのんびりもしていられない。
「おいお前!止まれ!」
本日3回目の登場だ。ゴロツキのクセにマメな奴等だ。
潤伍は苛立ち紛れに速攻で威嚇射撃をした。雑魚はこれで引き下がる。
「おいおい、血の気の多いポストマンだなぁ」
厳つい顔のゴリラみたいな大男は、いやにのんびりとした口調だった。
「俺は忙しい」
「まぁ待て。こいつを覚えてるな」
ゴリラの後ろから腰を低めに出てきたのは、本日2回目にボコボコにした奴だった。
とたんに、5人が建物の影から現れた。
~とうとうこういう日が来たか。
「俺達【黒狼】に手ぇ出したんだって、わざわざ教えに来たんだ。少し付き合えや」
~黒狼か…。
熊谷を拠点にした割りと大きなグループだった。埼玉と群馬を股にかけ、手広く闇商売をしている。
賊といっても、物資を横取りするのは主に下っ端で、大元は闇ルートで薬物や武器の取り引きで生計を立てている、言わばあれ以前の小規模暴力団のような存在だ。
ポストマンのルートに熊谷は入っていない。この事態も無理からぬ事だ。
潤伍は熊谷市内にある住宅展示場の1つ、豪勢な和風住宅の1軒へと連行された。
居間には親分か幹部か、サングラスの奥の瞳は測りかねるが、意外と小柄な男が深々とソファに座している。
「猫を連れたポストマンの噂は聞いていたが、意外と若いな」
「………。」
「フン…俺の娘が猫を欲しがってる。安全と引き換えでどうだ?」
「家族だ。あんたは自分の安全と引き換えに、娘を売るのか?」
潤伍にとっては息子も当然のハギは、実際の子供より手がかからないかもしれなかった。
彼が鳴く時は、トイレか水かご飯か。その微妙なニュアンスさえ掴めば世話に困ることはない。しつこく触らなければ噛むこともなく、抱っこも嫌がらない。
今も、潤伍の腕の中で会話に耳を傾けている。
「…?…ゴーグルを取ってもらおうか」
それには大人しく従った。
小柄な男は、深々と腰を下ろしたソファから飛び上がるように立ち上がると、一言。
「2階に…2人だけで」
サングラスの男は周りの部下達を制して、潤伍を2階の一室へと促す。
~何が起こるんだ?
扉を閉め、背中を見せたままの無防備な男。今襲えば、100%成功しそうだが、潤伍はしなかった。
「…ジュゴン?」
「……は?」
「お前、ジュゴンだろ!潤伍!小幡潤伍!」
名前どころか、彼にとっては思い出したくもないあだ名まで言い当てた男は、サングラスを外す。
その顔を潤伍はしっかりと覚えていた。
「良太?沖本良太か!」
「そうだよ!おい!お前何やってんだよ、全く!」
良太は大喜びして猫ごと潤伍に抱きつくものだから、ハギが苦しそうに鳴いて飛び出した。
「おぉう、悪い。しっかし久しぶりだなぁ!」
潤伍の背中をバンバンと叩く。
~痛い。
とたんに階下に向けて叫んだ。
「おい!茶を2つ!後、猫に水も用意しろ!」
沖本良太は潤伍の幼馴染みだった。高校まで同じ学校で、家族ぐるみの付き合いだった。
母親が亡くなってからは音信不通となり、というか、潤伍が不通にした。彼とはそれ以外9年ぶりだ。
「…何だか、お互いに歳をとったなぁ」
「あれのおかげでいろいろありすぎたな」
暫くは昔話や今までを語り合い、気付けば陽が傾いていた。
「昔のよしみで見逃してはもらえないか?殴った彼には謝罪しよう」
始めに襲ったのは黒狼で、苛立っていたとしても、少しやり過ぎたとは思っていた。
「言いたいことは分かるがなぁ…俺の幼馴染みだからって見逃してたんじゃあなぁ」
難しい顔で考え込む良太。
「ハギはやらないぞ」
「いや、1つ別の頼みを聞いてもらおう」
また嫌な予感。
「俺達はヤクはやらねぇ。色と武器しか扱ってねぇんだが、4日前だ。3人組のポストマンがいちゃもん付けた挙げ句、無銭しやがったって女が駆け込んできた」
「そいつらを引き渡せと?」
「見つけるだけでいい。後はこっちの流儀だ」
潤伍は暫く考えた。闇商売をする良太もどうかと思うが、それで生計を立てなければならない者も居ることは理解できる。
何より、ポストマン達の暴挙が許せなかった。
「…分かった。連絡はどう取る?」
「悪いが、2人付けるぞ」
「仕方がないな…けど、探し方はこっちの流儀だ」
昔やっていたみたいに、互いの拳をぶつけ合った。
~…2人付けるって、コイツらか…。
1人は潤伍がボコボコにした奴と、もう1人は彼を連れてきたゴリラだ。
「まぁ、知らねぇ仲じゃねぇんだし、よろしくやってくれ」
潤伍は良太のこういうがさつさが昔から気に入らなかったが、信用はしていたので改めて従うことにした。
まずは彼に謝らなければ。
「大丈夫か?…少しやり過ぎてすまなかった」
一応謝罪はしたものの、何となくお互いに重い空気が流れる。
青アザだらけの男は小さく「上野ッス」と名乗ったきり、口を開くことはなかった。
後で分かったことだが、この時上野は口の中を切っていたために、あまり話せなかったらしい。
ゴリラは本間と言った。奇妙な3人と1匹の旅が始まってしまった。
「あんた、猫の為にそのケースとやらを探してるって?」
本間が馴れ馴れしく語りかける。
「…そうだ」
「変わった人だねぇ」
「よく言われる」
正確には、よく解らないヤツ、という何とも表現しようのない言い回しが多かった。
そんな会話の中、潤伍が正規のルート通りに群馬の榛名湖を目指すものだから、疑問に思ったのだろう。
「お、おい…良いのか?」
「女性の証言から4日前に榛名に向かっている。恐らく俺より後に武甲を出たチームだとしても、俺は寄り道してたから、急がないと追い付けなくなる」
「あんた、頭良さそうだな」
本間は大袈裟に感心し背を叩くものだから、潤伍は痛くてむせた。
彼等は3日かかる行程を休まずに進み、1日半で榛名湖にある街へと辿り着いた。
「おいお前!止まれ!」
本日3回目の登場だ。ゴロツキのクセにマメな奴等だ。
潤伍は苛立ち紛れに速攻で威嚇射撃をした。雑魚はこれで引き下がる。
「おいおい、血の気の多いポストマンだなぁ」
厳つい顔のゴリラみたいな大男は、いやにのんびりとした口調だった。
「俺は忙しい」
「まぁ待て。こいつを覚えてるな」
ゴリラの後ろから腰を低めに出てきたのは、本日2回目にボコボコにした奴だった。
とたんに、5人が建物の影から現れた。
~とうとうこういう日が来たか。
「俺達【黒狼】に手ぇ出したんだって、わざわざ教えに来たんだ。少し付き合えや」
~黒狼か…。
熊谷を拠点にした割りと大きなグループだった。埼玉と群馬を股にかけ、手広く闇商売をしている。
賊といっても、物資を横取りするのは主に下っ端で、大元は闇ルートで薬物や武器の取り引きで生計を立てている、言わばあれ以前の小規模暴力団のような存在だ。
ポストマンのルートに熊谷は入っていない。この事態も無理からぬ事だ。
潤伍は熊谷市内にある住宅展示場の1つ、豪勢な和風住宅の1軒へと連行された。
居間には親分か幹部か、サングラスの奥の瞳は測りかねるが、意外と小柄な男が深々とソファに座している。
「猫を連れたポストマンの噂は聞いていたが、意外と若いな」
「………。」
「フン…俺の娘が猫を欲しがってる。安全と引き換えでどうだ?」
「家族だ。あんたは自分の安全と引き換えに、娘を売るのか?」
潤伍にとっては息子も当然のハギは、実際の子供より手がかからないかもしれなかった。
彼が鳴く時は、トイレか水かご飯か。その微妙なニュアンスさえ掴めば世話に困ることはない。しつこく触らなければ噛むこともなく、抱っこも嫌がらない。
今も、潤伍の腕の中で会話に耳を傾けている。
「…?…ゴーグルを取ってもらおうか」
それには大人しく従った。
小柄な男は、深々と腰を下ろしたソファから飛び上がるように立ち上がると、一言。
「2階に…2人だけで」
サングラスの男は周りの部下達を制して、潤伍を2階の一室へと促す。
~何が起こるんだ?
扉を閉め、背中を見せたままの無防備な男。今襲えば、100%成功しそうだが、潤伍はしなかった。
「…ジュゴン?」
「……は?」
「お前、ジュゴンだろ!潤伍!小幡潤伍!」
名前どころか、彼にとっては思い出したくもないあだ名まで言い当てた男は、サングラスを外す。
その顔を潤伍はしっかりと覚えていた。
「良太?沖本良太か!」
「そうだよ!おい!お前何やってんだよ、全く!」
良太は大喜びして猫ごと潤伍に抱きつくものだから、ハギが苦しそうに鳴いて飛び出した。
「おぉう、悪い。しっかし久しぶりだなぁ!」
潤伍の背中をバンバンと叩く。
~痛い。
とたんに階下に向けて叫んだ。
「おい!茶を2つ!後、猫に水も用意しろ!」
沖本良太は潤伍の幼馴染みだった。高校まで同じ学校で、家族ぐるみの付き合いだった。
母親が亡くなってからは音信不通となり、というか、潤伍が不通にした。彼とはそれ以外9年ぶりだ。
「…何だか、お互いに歳をとったなぁ」
「あれのおかげでいろいろありすぎたな」
暫くは昔話や今までを語り合い、気付けば陽が傾いていた。
「昔のよしみで見逃してはもらえないか?殴った彼には謝罪しよう」
始めに襲ったのは黒狼で、苛立っていたとしても、少しやり過ぎたとは思っていた。
「言いたいことは分かるがなぁ…俺の幼馴染みだからって見逃してたんじゃあなぁ」
難しい顔で考え込む良太。
「ハギはやらないぞ」
「いや、1つ別の頼みを聞いてもらおう」
また嫌な予感。
「俺達はヤクはやらねぇ。色と武器しか扱ってねぇんだが、4日前だ。3人組のポストマンがいちゃもん付けた挙げ句、無銭しやがったって女が駆け込んできた」
「そいつらを引き渡せと?」
「見つけるだけでいい。後はこっちの流儀だ」
潤伍は暫く考えた。闇商売をする良太もどうかと思うが、それで生計を立てなければならない者も居ることは理解できる。
何より、ポストマン達の暴挙が許せなかった。
「…分かった。連絡はどう取る?」
「悪いが、2人付けるぞ」
「仕方がないな…けど、探し方はこっちの流儀だ」
昔やっていたみたいに、互いの拳をぶつけ合った。
~…2人付けるって、コイツらか…。
1人は潤伍がボコボコにした奴と、もう1人は彼を連れてきたゴリラだ。
「まぁ、知らねぇ仲じゃねぇんだし、よろしくやってくれ」
潤伍は良太のこういうがさつさが昔から気に入らなかったが、信用はしていたので改めて従うことにした。
まずは彼に謝らなければ。
「大丈夫か?…少しやり過ぎてすまなかった」
一応謝罪はしたものの、何となくお互いに重い空気が流れる。
青アザだらけの男は小さく「上野ッス」と名乗ったきり、口を開くことはなかった。
後で分かったことだが、この時上野は口の中を切っていたために、あまり話せなかったらしい。
ゴリラは本間と言った。奇妙な3人と1匹の旅が始まってしまった。
「あんた、猫の為にそのケースとやらを探してるって?」
本間が馴れ馴れしく語りかける。
「…そうだ」
「変わった人だねぇ」
「よく言われる」
正確には、よく解らないヤツ、という何とも表現しようのない言い回しが多かった。
そんな会話の中、潤伍が正規のルート通りに群馬の榛名湖を目指すものだから、疑問に思ったのだろう。
「お、おい…良いのか?」
「女性の証言から4日前に榛名に向かっている。恐らく俺より後に武甲を出たチームだとしても、俺は寄り道してたから、急がないと追い付けなくなる」
「あんた、頭良さそうだな」
本間は大袈裟に感心し背を叩くものだから、潤伍は痛くてむせた。
彼等は3日かかる行程を休まずに進み、1日半で榛名湖にある街へと辿り着いた。