温泉の出る湖畔の傍、山林に建築された街は妙に賑わっている。
榛名郵便局へと向かい、受付の男に今日は祭りだと聞いた。
入局手続きを終えた潤伍は、すぐさまお付きの2人の元へと向かう。
「おい、ツイてるぞ。今日は祭りだそうだ」
「お前!祭りでワクワクしてんじゃねぇぞ!」
この頃になると、上野の顔の腫れも幾分かはマシになり、よく口をきくようになっていた。
「ジュゴンよ~、気持ちは分かるが今ははしゃいでる場合じゃないぞ」
「お前らアホか!そしてジュゴンって言うなって!いいか、この1週間で入局した3人組は2つ。1組は4日前に出発している。時期からして俺達の狙いはまだ街に居ると考えていい。目当ては祭りだろう」
「そうか!祭りに便乗すれば捕まえやすいな!その後は好きにできる!」
「やっぱ頭いいなぁ!」
その後に続く平手を、潤伍はかわすことに成功した。本間は着地するはずだった手が空を走り、遠心力でクルリと回転した後、隣に居た上野の腫れた頬をバチンと叩いていた。
「避けるなよ~」
「…3人組の人相も確認済みだ」
潤伍達は着替えて一般人を装い、浮かれる街へと紛れて行った。
「ねぇ潤君…これ、失敗だったね…」
「だなぁ…」
夏と2人で気合いを入れて浴衣を着た花火大会。人混みに揉まれて浴衣は着崩れるし、馴れない下駄で足も痛くてたまらなかった過去を思い出す。
「おいジュゴン、あいつらは?」
~………。
「違う。…本間、今度ジュゴンって呼んだら、そのでっけぇ鼻っ柱を折るからな」
「じゃあ何て呼ぶんだよ。沖本さんはジュゴンでいいって」
~良太の野郎。
「ジュゴン以外だ」
その時だった。受付で聞いた通りの3人組が目に入る。
「アレだ!」
よっしゃ!と飛び足す2人を制する。近くに警備員が居たので、暫くの尾行を要求した。
「いいか、殴るのは1発だけにしておけ」
「なんでだよ!あいつら女に酷い仕打ちした上に無銭までしたんだぞ!」
「あぁ!1発で終わりじゃ黒狼の名折れだ!」
「し~!落ち着け、1発で終わりにはしない。少し考えがあるんだ」
潤伍は右ポケットをまさぐった。
「いいか、何をしたか全部吐かせてから殴れよ」
「…何か知らんが…オバッちゃんが言うなら…」
~………。
「…なんだオバッちゃんって」
「ジュゴンが嫌なんだろ?だから、小幡のオバッちゃん」
普通に小幡と呼ぶ発想はないのかと潤伍は思う。距離の縮め感が半端ない。少し羽鳥を思い出した。
「…とにかく、何をしたかが問題だからな」
「分かったよ…」
2人とも渋々といった様子で了承した。
最初に声をかけたのは潤伍だった。ポストマンとして先輩にアドバイスを求めたらすぐに付いて来た。
「何しろ数週間前になったばかりだから、いろいろ勝手が分からなくて」
「だろうなぁ、この職業は甘くないからなぁ」
1人は得意気に言う。
「あんた達みたいなベテランだったら、武勇伝もいっぱいあるんだろ?そうだ、最近あったこととか教えてくれないか?」
3人は酒が入っているせいか、鈍そうに首を捻った。
「最近かぁ…あれは武勇伝なんてモンじゃねぇしなぁ」
「何でも教えて欲しい、参考までに」
「そう言えばこの前、色町の女をヤッちまったなぁ」
~来た!
「ヤッたって?」
「いやぁ、一気に3人は相手に出来ねぇなんて言いやがるから、ちょっと脅してやったんだよ」
「どんな風に?」
「知り合いの警備員が残忍なヤツでって話始めたら、ガキが居るから勘弁してくれなんて泣いてたなぁ」
「その後、3人で遊んでやったんだよ」
~鬼畜か…。
「最後に金なんて言いやがるから、俺らも言ってやったんだよ」
ゲラゲラと下品な笑い声を上げる。潤伍でさえも拳を握り締めずにはいられなかった。
「…何て?」
「俺達は満足してねぇから払う必要ねぇっ」
言い終わる前に上野が殴りかかっていた。
「オバッちゃん!もう十分だろ!コノヤローがぁ!」
本間もぶち切れている。気持ちは痛いほど分かった。その女の恐怖と苦痛を思えば尚更だ。
しかし、ここらで止めなければ、死なせるわけにはいかない。
潤伍は警備員を呼び、その場を収めることとなった。
彼以外の5人が逮捕され、時事説明の為に潤伍は警備隊を訪れる。
「藤田正人隊長は居るか?武甲の小幡と伝えてもらえれば分かるはずだ」
受付に告げてから数分後、藤田は小走りに潤伍の前に現れた。
強面の、いかにも屈強そうな体躯を持つその人は、潤伍を見止めたとたんに白い歯を見せた。
事情を説明すると、藤田はう~んと腕組みをして考え出した。
「黒狼に組するとはいえ、女1人に3人で暴行したらしいですよ」
「…証拠は?」
潤伍はポケットから小さなレコーダーを差し出した。それは、探し物のついでに電池と共に拾った物だった。
藤田はとたんに潤伍の腕を掴むと、とんでもない所へと入室する。
そこは、警備隊屯所から100m程しか離れてない、同じ敷地内にある中央直轄部の中心人物が居る部屋だった。
つまり、この街のトップだ。