2012年11月4日(日)曇り時々雨

 久しぶりに二人きりで食事を共にした一昨日の友人の話を思い返してみる。ともに心理学を志した友人ならではの、楽しい時間だった。
 
北海道の著名な作家の方のもとを訪れた時、様々な人間観や世界観、そしてあるべき未来の姿について、まるで古くからの友人でもあるかのように「意気投合」して時間の過ぎるのを忘れるような日があった。

あの時、烏賊は透明なものと信じていた私は、その方に大笑いをされたことがあった。
「新鮮な烏賊は透明です。少し時間が経つと白くなります。白い烏賊は烏賊ではないと長い間、思っていたくらいです。」と申し上げたところ、ゲラゲラと大笑いされて、その後も笑いが止まらないと言う様子だった。「一度、佐賀県の呼子にきてください。私が誇張をしているのではないことがお分かりだと思います。」と大真面目に反論すると、さらに笑いが止まらない。

酒も随分入っていたから、たわいのない話だったのかもしれないが、今でも釈然としないのだと友人に言う。

「そうだね。北海道も新鮮な食べ物が多いから、烏賊が透明なことはその先生もご存じだったはずだよ。おかしかったのは、烏賊ではなくて君の話し方だったり、馬鹿正直な姿だったのではないかな。」と言う。
そして科学者らしく言葉を続ける。「神経心理学は、ある意味で烏賊のお蔭で発展していると言ってもいいんだよ。新鮮な透明の烏賊が勝負を分けるのさ。烏賊の神経線維は、どういうわけかとても太くてね。透明な体の烏賊だから、その太い神経線維を容易に取り出すことができて研究が進んでいるのだよ。」だから烏賊は透明と言う君の主張には、長い心理学の歴史から見ても正当性があると言えるよね。」

 心理学は宇宙や海と同じように、まだわからないところだらけの学問だ。誰も行ったことのない前人未到の地が無限に広がっていることにどれだけ多くの感動を覚えたかわからない。

知覚心理学や認知心理学の最先端の話が聞けるのも有難い。
「三人寄れば文殊の知恵というけど、まさに未来の学校で協働教育を目指している。脳・情報通信融合研究も音頭をとって大きく前進していて良かった。」と述べる。「そうだね。とても大事なことだ。ただね。今は、三人寄っても、そこにある法則だの原理だのってものを無視すると文殊の知恵にならないどころか、却って悪くなると言う結果も出ているよ。三人寄れば馬鹿になるなんて、とんでもないことだよね。」「なるほど。ある法則や原理を無視してただ集まっても却ってまずいんだ。」

その原理や原則とは何だろう。それを話し合う時間を次回はぜひ持ちたいと思う。

あら(くえ)についても話す。
玄海でとれた大きなあらは、身もしまっていてとても美味だ。
おもてなしの象徴であり年に一回の祭りを彩る陰の主役でもある。

私には、唐津くんちのある秋の魚という印象だが、関西の彼は、冬の魚だと思っていたようだ。お鮨屋さんの大将がここに絶妙な合いの手を入れてくれる。あら(くえ)がどんなところに生息している魚か。玄海の荒海でもまれた魚はとても美味しい。

彼は、500票差で負けた時のことを知る数少ない友人だ。あの開票日に彼は、私の「傍」にいてくれた。崩れ落ちそうになる心と気持ち。それを支えてくれた人たちのことを私は忘れない。

佐賀インターナショナル・バルーンフェスタ2012の最終日は、あいにくの天候だった。しかしこの30年間、立ち上げの時から支え続けてくださっている方々とも多くの時間を持てた。特に東京の町田さんは、佐賀のバルーンの生みの親でもある水町さんらを変わらず支えてくださっている。
スポンサーとしての大きな支えをいただいているホンダさんら企業の皆様、ボランティアとして支えてくださっている多くの皆様にも感謝を申し上げたい。
天候のためにバルーンは飛ばなかったが、家族連れ等で賑わう嘉瀬川河川敷には、暖かい絆で溢れていた。私の姿を見つけて多くの方々が駆け寄ってくださった。一緒にどれくらいの写真を撮っただろう。「佐賀にいらしていただいて本当にありがとうございます。」と手を握る。

父の古くからの友人と言う方も駆け寄って来られた。「本当に応援しています。でも悔しい。今の民主党には、とても失望しています。」父の友人と言うこの方の言葉に返す言葉がしばらく見当たらなかった。毎年、決まって訪れる料理屋さんのおかみさんもものすごい勢いで手をとってこられた。「一博さん。歯がいか(歯がゆい。)頑張らんば。まーだ頑張らんば。」長年、支援をいただいてきたおかみさんだ。人気の料理屋さんだけに多くのお客さんが店に来られる。そのお客さんたちの声も聞こえるようだった。

雨が落ちてきた。
そろそろ上京する時間だ。

昨日と同じような感覚に襲われる。昨日の唐津での感覚と同じだ。虹の松原の美しい並木道を走る時に感じたのと同じだ。「あと何回、この景色を見ることができるだろう。」私の中では、青春のあの日が昨日のことのようなのに、もうあれから25年もの歳月が過ぎている。石井樋の美しい川の流れを見ながら同じような思いが頭を過る。自分の最期の時まで、ここを何回訪れることができるのだろうか?もっと年老いた自分は、この景色を今と同じように見ているのだろうか?
政権交代の夢は実現した。しかし、その後の挫折は、想像もしない「酷い」ものだ。菅内閣の閣僚を最後に政府から離れた。義理を果たすための行動も今は、重いツケとして帰ってきている。どこをどう間違えたのか?

大きな楠をわたる風がささやいた。
「まだこれからだ。負けるな。」

故郷の大好きな景色の中。

 サマーセット・モームの「月と6ペンス」を読む。

 夜、後輩から力が不足していたとメールがくる。
初めての挑戦の首長選挙に敗れたのだ。
「今が勝負です。支えてくださった方々はじめ皆様への感謝を勇気にかえて飛躍されんことを祈ります。」と返信する。

 昨年、相談を受けた時に彼に出した「宿題」が二つあった。
その二つは、選挙に入るまでできていなかった。とても大切な人材だ。彼は、それを覚えていると思う。