ノーベル平和賞授賞式に伴う「Pubrfic service summit 2011」で用意したスピーチ原稿草稿です。修正をほどこしているために先日、アメブロに掲載した英訳と異なる部分がありますのでご了承ください。

 スピーチの機会をいただいたことを心からお礼を申し上げます。ご紹介いただいた衆議院議員の原口一博です。私は、政権交代後の新しい政権で総務大臣(情報通信・地域主権担当大臣)を務め、現在、衆議院の総務委員長を務めています。ご挨拶に先立ち、1000年に一度と言われた未曾有の東日本大震災に対し、世界の皆様から本当に心温まるご支援を頂き、改めて皆様に心からの御礼を申し上げます。

私たちは、津波・地震・原発事故と未曾有の大災害に見舞われました。3月11日の地震発生時、今、米国で情報通信分野を力強く牽引されている友人が、これからオバマ大統領とディナーを一緒にされるということで、私はワシントンに電話をしました。その内容は、この原発事故が大変深刻で、人類が経験したことがないコントロール不可能な、かつてない事態に陥るかも知れないから、世界的な智恵と力を貸して欲しいという内容でした。第一原発の一号機マーク1等はアメリカ製です。原発の秘匿性の高さを考えてもアメリカの協力なしには事態を収拾できないと懸念したからです。米軍の「トモダチ作戦」をはじめ、世界から頂いた多くの支援に心から感謝を申し上げたいと思います。原発4機全てがメルトダウンしてまとめて吹き飛ぶという最悪の事態は避けられました。しかし、現在も余談を許さない状況が続いています。
また、私たちは「日本維新の会」を立ち上げ、被災地の支援に乗り出しました。この日本維新の会はICTを活用して多くの支援の輪づくりをしています。お陰様で日本中はもとより世界の皆さんが様々な支援を申し出てくださいました。一例をあげるとヨーロッパの友人は、液体ミルク7万本の支援を申し出て下さり、飲料水も十分に行き渡らない状況の中、すぐに飲むことの出来るミルクは、多くのお母様たちに喜んで頂きました。放射能・内部被爆の恐怖は、特に乳幼児、胎児、子供たちにとっては大変深刻です。お送り頂いた友人は、匿名を希望されていますが、かつて第2次世界大戦の時に、ファシズムの迫害から多くの人たちを救った方の末裔でもあります。まさに、民族・宗教・国家・人種・時代を越えて、かけがえのない連帯を頂いたことに、改めて御礼を申し上げます

私は、3つの平和の理念を元に、活動を続けてきました。
1つは「社会的な平和」です。戦争や暴力、抑圧、差別という、人を人でなくする全てのものと戦う、これが私の政治目標です。2つ目は「地球環境の平和」です。今、地球全体の環境問題は大変深刻で、次の世代に、今の地球の状態を先送りすることは出来ません。生きとし生けるものが、平和に暮らせる地球環境の平和を目指して活動して参りました。
そして、3つ目は「心の中の平和」です。私は、学生時代に、心理学・社会学・法学を学びました。一人ひとりの「心」が社会を作っている観点からも、心理的なアプローチからの「平和」も重要だと考えています。「アティテューディナル・ヒーリング」というカウンセリングがあります。恐怖や不安、怒りや自責の念という感情にとらわれて「敵」のいる人生を過ごしていくのか、それとも、そうした感情を手放して、無条件の愛を感じながら生きるのか、心の平和のために、自分の責任で心の姿勢を選び取っていくというプロセスです。「怖れ」を否定するのではなく、手放すというアプローチから、 内なる平和の実現のために行動しています。

私たちは、今回の被害日本大震災から多くのものを学びました。自然の猛威の下に、多くの皆さんが命を落とされました。残された方々の思いを考えるときに言葉もありませんでした。今回、日本が経験した大きな問題点と今後の課題について、皆さんと共有したいと思います。
まず、私たちにとって大きな課題となったのは、被災者を救済する自治体そのものが、大きな打撃を受け、本来の機能を果たすことが出来なくなったということです。住民基本台帳が津波で流され、誰が被災したかということさえ把握出来ない状況になってしまったのです。私は、以前から、自治体情報、住民情報をクラウド化して、国民IDの元で多くの人たちが安心安全に避難し、命の安全が確保されたかどうかのチェックが出来るようにすべきと訴えていた中での出来事でした。
そして、通信網の分断も大きな混乱を引き起こしました。今回の地震は、大規模な地震にあったにも関わらず、家屋の倒壊で無くなった方は少なかったと言えます。しかし、問題は、あらゆる通信網が分断され、津波の情報がうまく伝わらなかったのです。
実は、情報通信大臣に就任した2年前、今回の事態をシミュレートしたような事態が発生しました。チリ沖地震によって、大規模な津波が発生し、日本に到達する可能性があるという情報が伝えられたのです。この時は、津波到達までに24時間以上の時間がありましたが、消防庁のオペレーションルームで、この情報を集約していました。
この時、私たちが一番気を配ったことは、3点ありました。1つは、津波の的確な情報が国民に届くということ。2つ目は、その情報に基づいた適切な避難がなされるということ。3つ目は、原発のように、ひとたびコントロールを失えば、世界に対しても大きな影響を及ぼす施設に対する安全性の確保でした。実際の津波の高さは、2メートルから3メートルでしたが、当時、この津波によって、日本の原発がメルトダウンすることがあるのではないかという情報が流れ始めたのです。ある意味でのパニックでした。パニックを防ぐために、私は、経済産業省に指示をして、チリ沖津波で日本の原発がメルトダウンする可能性について調査をさせました。「東京湾ポイントから13ポイント上回る高さにある日本の原発は、今回の津波では影響を受けない」ということでしたので、そのことを皆さんに大臣自らが語りかけ、その時のパニックは収まりました。
その後、津波による原発の安全性の問題をチェックしていたにも関わらず、それを上回る津波によって、私たちはレベル7という未曾有の原発事故を経験し、放射能の恐怖と戦っているわけです。
私は、今回の地震においても、自分が所管していた消防庁・情報通信の部局を呼んで、いざという時にインターネットメディアやクラウドによって、国民に適宜適切な避難・支援の情報が伝わるようにという仕組みを作りました。今回、十分には衛星無線も働きませんでしたが、この仕組みによって、救われたという人も多くいたという報告が分ありました。ツイッター、フェースブックという常時つながるプラットフォームによって、どこに避難者がいるか、誰が孤立無援の状態であるのか、どこに食料・医薬品が届いていないのかということを、世界全体で共有することが出来ました。

一方で、福島原発の事故は、その後、首都圏における深刻な電力不足の「懸念」を生み出しました。首都圏では電車が運休し、帰宅困難者は515万人を超える状況が発生しました。計画停電が余儀なくされ、明日から、命の元であるエネルギーを止められるという事態に直面したわけです。この計画停電が妥当であったかどうかは、今後、検証すべき課題だと考えています。
私は、こうした首都圏を襲った課題から、エネルギーの転換を図らなければならないと考えています。エネルギーそのものを、省エネとコスト削減及び信頼性と透明性の向上を目指したスマートグリッド化し、エネルギーの大規模・集中・独占・排除という仕組みから、小規模・共有・共存という仕組みに作り替えるという「緑の分権改革」という仕組みを、今後、更に加速させていく必要があると考えています。
東京電力管内での電車の需要割合は、1%にしか過ぎません。またデータセンターの消費エネルギー量も1%にしか過ぎません。しかし、電気通信・情報通信というのは、今後、多くのエネルギーを消費するものになっていくと思われます。私は、その分野にも新しい技術を開発すべきと考え、「脳と情報通信の融合研究」という分野にもチャレンジ致しました。
現在、私たちが使っている情報通信機器は、ゼロイチの情報を元にしています。しかし、脳の情報処理はいわゆる「曖昧なもの」を元に情報認識を行っています。また、脳は、自ら学習し、回復し、非常に小さいエネルギーで動くといった優れた特徴を持っていますから、この特性を情報通信に活かし、イノベーション創成に挑戦しています。

続いて、私は、2015年までに、全ての世帯で世界最高速ブロードバンドサービスの利用を実現させるという「光の道」構想を目標としています。今の電話と同様に、安価で安全安心な情報通信のネットワークを国全体に敷設し、復興からの立ち上がりを早くしていこうと考えています。

さて、ここからはエネルギーのパラダイムチェンジのお話をしたいと思います。
人類の歴史において、太陽光を固定化できるのは、植物だけでした。ですから、人類は、古代から、収穫される米や麦、つまり、エネルギーの量を「権力」の象徴として表したわけです。エネルギーを大規模に独占的に集中的に独占出来るものこそが「権力」そのものだったのです。エジプトではファラオがナイル川を、中国の皇帝は黄河を、日本では、大名が自分の領地で採れる米の量を、「石高」という単位で、権力の大きさを示したわけです。 
これまでの歴史の中において、何度かエネルギーのパラダイムは変わりました。それが産業革命です。過去、地表に降り注いだ太陽エネルギーを固定化した「石炭・石油」、つまり、エネルギーのタイムカプセルを、独占的に掘り出して使える智恵を持つ時代になった、これが産業革命です。黒船の時代、当時の日本は、その年に降り注いだ太陽光エネルギー、収穫出来る米の量で権力を維持している社会に対し、石油・石炭といったエネルギーをストック出来る国から挑戦を受け、日本は開国を果たしたわけです。
しかし、基本的なパラダイムは変わりませんでした。これは今、欧州を覆っている危機についても同じことが言えると思います。本来、「通貨」というのは、本来の物と物を交換する記号の役割であったものですが、その記号だけが一人歩きしてしまえば、通貨は別の意味を持ち始め、貧困・格差・紛争が広かっていきます。ですから、私たちは今、自由主義・資本主義において使っているマネーの記号を、もう一度考え直す時に来ているのです。お金は、貪り、他者の尊厳を奪うものではなく、より社会的な「人を育むためのマネー」として、創造していくべきなのです。
そのためにも、エネルギー政策を根本からクラウドによってパラダイムチェンジしていく必要があります。分散・共同・小規模へ、そして、一人ひとりが地球環境に責任を持つ時代にならなければなりません。皆さんがそれぞれのお宅で、2キロワットのエネルギーを生産する権利が保障されたら、今とは違うエネルギーパラダイムを生み出すことが出来るでしょう。
発展途上国のある国では、識字率が19%、子供達が10人に1人しか5歳の誕生日を迎えることが出来ないという国があります。幼い命が守られない。そんなことがあっていいはずはありません。これは間違っています。明らかに間違っています。同時代を生きる私たちには、この状態下にある子供たちを一刻も早く救う責務があります。エネルギー政策のパラダイムチェンジそのものは、民主化そのものであり、人間の尊厳そのものの改革だということです。
ICTの環境は、危険に満ちたものです。その大きな原因がサイバー攻撃です。この映像は、総務省が所管しているNICTがサイバーアタックをビジュアル化したものです。これまでのサイバーは、大きなミサイルのようなものでした。しかし、近年は、全く気づかないような、探知することすら難しいようなアタックがこっそり忍び込んできて、破壊的なシステムダメージを受ける時代になっています。そこで、私が大臣就任時、アメリカFCC委員長ジェナカウスキー氏と4つのタスクフォースを立ち上げました。その1つがサイバーセキュリティーのタスクフォースでした。サイバーは世界中で繋がっていて、ダムと同様に、どこか1つが壊れてしまうと、全てが崩壊してしまいます。このサイバー攻撃から国民を守るためにも、クラウド化が不可欠なのです。
日本には、各自に国民番号(ID)を附番することに対して抵抗感があり、私たちも野党時代は、人間は番号を振られるべきではないということで反対して参りました。しかし、情報通信の発達した現在、逆に自らの情報が誰かにいつの間にか取られる可能性、情報のコントロール権を奪われる可能性があるということに気づき始めました。自己情報をコントロールし、プライバシーを保全する、人間の尊厳そのものを保障するための「国民ID・原口5原則」というものを出させて頂きました。
私たちは一気に日本のパラダイムを変えようとしています。世界の先頭に立とうと考えています。

最後になりました。これは、私の名刺です。ここに1枚ひとつ違う押し花がついていますが、これは、障害持った方々が一つひとつ丁寧に作って下さっているもので、1枚ごとにその施設に50円が寄付されることになっています。私たちは、生きる中で、多くの困難に直面します。しかし、出来ないこと困難なことを問題にするのではなく、やれることを着実にやることを、大切にしていかなければならないと考えています。
私の友人に、手も足も動かすことが出来ず、話すことも出来ない方がいます。しかし、彼はカウンセリングとして多くの人たちの心に触れ、勇気を与えるというかけがえのない仕事をしています。どうやってカウンセリングを行っているかというと、目の動きを情報機器で読ませ、音声に変える仕組みです。彼は言います。「出来ないことが問題なのではない、出来ることが大切なんだ。生まれて初めてお給料を貰い、税金を払った。税金を払うことは義務だけでなく、権利なんだ。障害は私たちの中にあるのではなく、社会の中にあるんだ」と。
私たちは「障がい者」という言葉を使いたくないと思っています。ケネディは、「チェレンジド」という言葉を使いました。生まれながらにして神様から挑戦する課題をもらって生まれてきた人たち、生まれた後に様々な課題にチャレンジする人たち、「チャレンジド」を「tax-payer」にというのが、ケネディの公約でした。私は連帯の社会を作りたいと考えています。そして、人間の安全保障によって、世界をもっと平和したいと考えています。

その基本が教育です。私が進めている「未来の学校」は、感動や真実の発見に対する喜び、そして、共に解決に導く助け合い、分かち合い、絆を大切にしています。私たちが配っている端末は、単なる電子教科書ではなく、「ノート」なのです。そのノートを情報通信を通じて共有することによって、みんなが「真・善・美」、「大きな志」、「感動」、「魂を揺り動かすような経験」を共有することによって、解決型の教育を目指しているのです。
この、未来の学校事業は、初年度、東西日本に5校ずつ実験的に導入し、その後、全国に急速に広がってきました。答えが一つしか無いことを学ぶ教育は、非常に排他的です。学ぶ喜びを知る前に、学ぶ大変さを知ってしまうことは、子供達の可能性を摘んでしまいます。私たちは、新しい教育によって、人間の安全保障を構築し、皆で共に平和で暖かい世界を作っていきたいと考えています。
その中心も「クラウド」です。クラウドそのものは道具に過ぎません。しかし、人間の尊厳の礎の中心に、クラウドという道具を使うことによって、新しい可能性が拓け、世界全体が変わっていくに違いありません。
共有すること、助け合う、分かち合うことの大切さ・・・。1000年に一度という未曾有の災害によって、私たちは改めて、感謝、暖かさの有り難さを、世界の人たちから分けて頂きました。
日本はくじけることはありません。これからも果敢に新しい時代を作っていくことをお誓い申し上げ、私のご挨拶に変えさせて頂きます。