人を人でなくする力と戦うために

 人を人でなくする力と戦う基となるものは教育だけです。
人間の尊厳を学び、人間の尊厳を保障することで初めて人は人となりえます。社会は、血の通った温もりを持ちます。

 九州大学でノーベル平和賞受賞者でもあるバングラデシュのムハマド・ユヌス博士とお会いしお話をうかがう機会をいただきました。博士は、グラミン銀行を発案。マイクロクレジット事業という少額の融資で発展途上国、特に女性の支援を行うことで、世界を貧困と暴力から救う活動をされている方です。博士の活動も基本は教育にあります。自らの権利に気づき学ぶことが、他社の尊厳も尊重し保障することにつながる。貪る資本投資ではなく、支える社会的資金の還流という考えは、極めて重要です。

「未来の学校」構想と絆事業

教室を見るとぽつんとひとりで朝ごはんも食べられずにいる子どもたちがいます。
人は、自らを育んでくれる温かな絆と言う土がなければ、自分を健やかに保つことはできません。

 私が総務大臣の時に構想しスタートさせた事業の一つにICT(情報通信技術)を使った「未来の学校」があります。
最初の一年は、日本全国を東西5校ずつ選び試験的に始めたこのプロジェクトもこの2年で急速に前進して参りました。

「未来の学校」
それは、電子黒板や電子教科書を整備することではありません。教育のICT化が中心となっているのは、そのとおりですがそれは手段であって目的ではありません。
「一つしかない答えを覚えることの競争」の勝者は、友人との絆よりも相手を追い落とすことを考えがちです。学ぶ喜びよりも学ぶ大変さを知るのは、本当にもったいないことです。学校で手をつなぐ安心を知る前に虐められる怖さを経験するのは、悲しいことです。
「協働」「解決型」という二つの理念を中心に、世界一の高速ブロードバンド環境と新たな情報技術を使って教育そのものを血の通ったコミュニケーションをもとに変革しようというのが「未来の学校」です。
ここで配られる情報通信機器は、子どもたちが真善美、大きな志を共有するための世界への窓です。子どもたちは感動や真実を発見する喜びを共有することができますし、ともに解決する術を日々の授業で培うことができます。
先生対生徒という1対Nのコミュニケーションを先生、生徒どうしというN対Nのコミュニケーションに発達させることの効果も期待しています。