2012年7月4日付Daily Yomiuriの第1面でこういう見出しの記事がある。
Medvedev visits Kunashiri despite calls for restraint
 
内容はメドベージェフ首相の国後訪問だが、紙面では記事本文でこういう部分があった。
 
On Tuesday, Medvedev arrived in Ku-
nashiri on a plane from Yuzhno-Sakhalin-
sk in the far eastern region of Sakhalin, ac-
cording ro the reports.
 
日本の新聞なら「7月2日」と日付で書くところを英語のニュースではTuesday(火曜日)というように曜日を多用する理由がよくわからない。5年後、10年後、20年後にこの記事を見た人はこの「火曜日」がいつかわからないだろう。
ここで印象的だったのは Yuzhno-Sakhalinsk の Sakhalin- で行が切れて、次の行頭で sk in the …と続いていることだ。
 
確かに形態素としては Sakhalinsk は Sakhalin に sk がついたものだ。
 
しかし、英語のハイフンは音節の切れ目を意味し、音節主音になるのは「母音」か「前後に母音を持たない流音か鼻音」である。
するとユジノサハリンスクは Yuzh-no-Sa-kha-linskという風に切れるはずだ。
だから本来なら(Ku-)nashiri から Sakha-までの語の間隔をひろくして、次の行は linsk で初めてよかったのである。
一番いいのは、Yuzhno- までの語間をもっとひろげて、Yuzhno-が行末に来るようにして、次の行を Sakhalinsk で始めることだ。
 
ところがこの新聞では Sakhalin- で切っており、次の sk は連続子音だけ(しかも無声摩擦音と破裂音)だけになった。
この記事を書いた記者も字数と行の長さの関係で苦労したのだろう。
 
ここで Sakhalin についた sk が子音だけだったことが問題だった。
例えば Avtozavodskaya であれば、Avtozavod- で改行して、次の行で skaya で始まっても skaya が2個の音節だから形態素の切れ目としても音節の切れ目としても問題なかったわけだ。
 
サハリン州のロシア語名は Sakhalinskaya Oblast' である。
Petro-pavlovsk-kamchatsky であれば、-kamchat- で改行しても、次の -sky が1音節だからこれも問題なかったわけだ。 
 
またロシア語のжが英語で zh になり、хが kh になる英語の綴りも、この地名の綴りを長くしてしまった。
例えば、もし Yujno-Sahalinsk とでも綴っていれば、先ほどの記事は -linsk で終わっていたはずである。
 
ユジノサハリンスクはエスペラントで Juĵno-Saĥalinsk である。
エスペラントの正書法による字数の節約が生きている。
エスペラントでは名刺語尾を o で統一しており、地名も Novjorko(=New york)のように o で終わるように「修正」されるようだが、ユジノサハリンスクは例外なのだろうか。
 
カタカナであれば「ユジノサハリンスク」と書いて、「ユジノサハリン」で改行、次の行で「スク」で始まっても何ら問題はない。
 
さらに補足すると「クナシリ」はアイヌ語起源の地名で、ロシア語では Kunashir であり、r のあとの i は必要ない。
この Daily Yomiuri の記事で(Ku-)nashiri on a planet が(Ku-)nashir on a planet であればアルファベット1個節約できた。
それから Yuzhno-Sakhalinsk の綴りもハイフンを省いて Yuzhnosakhalinsk にするなど手はあったはず。
また Yzhn-Skhalinsk や Y-sakhalinsk のように Yuzhno- を短縮する手もある。
South Korea を S Korea または ROK(=Republic Of Korea)にするようなものだ。
Yuzhno-Sakhalinsk の Yuzhno- は「南の~」という意味である。
Yugo-Slavia の Yugo- も同様で、yug が形容詞になると yuzhn- のようになって g が zh になる。
英語で south が southern になると ou の母音の發音が変わり、th が有声化するが、それと似た現象だ。
 
だからシナ語では
Yuzhno-Sakhalinsk を「南薩哈林斯克(Nan-Sahalinsike)」になり、
Yugoslavia は「南斯拉夫(Nan-silafu)」になる。
 
南オセチア(South Ossetia)」もロシア語では Yuzhnaya Osetiya である。
共和国(Republic)はロシア語で Respublika になる。
 
独語でJuschno-Sachalinskになる。
独語話者は露語の zh(ж)を sch にして取り入れる。
 
佛語でIoujno-Sakhalinskになる。
露語の zh(ж)は佛語の j と同じだが、Yu(Ю)は佛語では二重母音 Iou [iu] と解釋されている。
 
独語の場合、露語の kh(х)を独語の ach-Laut にしているあたりはさすがである。
Chekhov(Чехов)は独語の綴りで Tschechov になる。
Tschechov の場合、露語の kh は独語で ich-Laut になる。
それで sch[∫] と tsch[t∫] のように綴りが長くなるのが独語の難点だ。
これは Nietzsche の綴りにも表れているし、Khrushchev(Хрущёв)が英語、独語、佛語、エスペラントでどう綴られるかということにも関係してくる問題だ。
佛語の場合、声門の h が發音されず、露語の硬口蓋の kh [x]  はおそらく [k] で発音されるだろう。
 
Petro-pavlovsk という地名はカザフスタンにもある。長い地名に見えるが母音の数から4音節になる。
 
TWEET
 
前後一覧
 
関連語句
yuzhno-

参照