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ハウスとハイム、エゴとエコ 

昔なら「節約」「自然保護」「環境を考えた」「再利用」などと言い分けていたものを、今では何でも「エコ、エコ」ですませる風潮になっている。

テレビなどでまるでエコー(echo)のように「エコ、エコ」と繰り返しているが、意味が正確につたわっているとは限らない。
「エコ」を「エコノミー」の略と勘違いしている人もいるようだ。
そもそも、レジ袋削減など、昔「省エネ」と言っていたことまで「エコ」というのだから、「経済」と勘違いする人も多いだろう。

ecology は economy と eco- が共通している。
小学館の『PROGRESSIVE英和中辞典』で調べてみると、この eco- はギリシャ語の oîkos(家)らしい。
economy はギリシャ語で「家の管理」、ecology は「家」+-logy(~学、~論)で「生活環境に関する学問」。

economy と ecology の関係に似ているのが astronomy(天文学)と astrology(占星術)である。
astro- は「星の」で、ラテン語で astrum と stella が「星」を意味する(下注釋)。
astro- はもともと、ギリシャ語([ Y!辞書])らしい。

したがって、astronomy は「星の規則」、astrology は「星の学問」。
本来、天文学が astrology と呼ばれてしかるべきであり、これは古代社会で天文学者が占星術もやっていたことの名残りである。
独語では天文学を Stern-kunde(星の学問)と呼ぶ。
英語では astronomy のほかに cosmos(宇宙)と -logy で cosmology(宇宙論)がある。

似た例として geology(地質学)、geography(地理学)に対する earth science(地球科学、地学)がある。
ドイツ語圏では Geographie(地理学)を Erd-kunde(earth の学問)と譯している。
「天文学」も star science のように言えばわかりやすい。

economy と ecology はどちらも「家の学問」になる。
ちなみに「家政学」は英語で home economics(家庭の経済)であり、home と eco- で「家」が重複している。
学校の科目としての「技術・家庭」は Wikipedia で調べると
Industrial Arts and Homemaking(産業的藝術と家作り)が從来の言い方で、
Technology and Home Economics(技術と家政学)が近年、しばしばみられる表現らしい。

シナ語では economy は「経済」jingji で、ecology は「生態学」shengtai-xue もありうるが、環境保護の意味では「環境保護」huanjing-baohu、略して「環保」huan-bao が使われているようだ。
このあたり、「エコ、エコ」と意味もわからずに使っている日本人と比べれば、中国人のほうが意味を考えて語彙を組み立てていると言える。

「エコ、エコ」と言えば意味がつたわると決めつけることこそ、「エゴ(利己主義)」である。

前後一覧
2009年4月


注釋
star と astro- と stella(星)
* のような星印を asteriskと呼び、もとはギリシャ語のようだ。
ラテン語の stella と英語の star を比べると l が r になっているように見えるが、下宮忠雄氏によると *stēr-la のように r と l の連続が変化した結果らしい(『ヨーロッパ諸語の類型論』)。
stella は現代英語で stellar(星のような)、stellate(星形の)という単語になっている。


参照
「マイ箸」とは誰の箸か