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漢字には字源はあっても語源はない。語源は漢字が表わす詞(ことば)の源である。

詩の翻譯をしているアーサー・ビナード氏(ネットで綴りを確認すると Arthur Binard、Wiki)が都内で講演し、その講座について現地の公民館だより3月5日号で杉山香織氏という人が感想を書いている。

その中で以下のような文がある。

 なかでも印象的だったのは最後に朗読された「Rocking]という詩です。
 窓際に座って子を揺らす母と海が一体となって、ゆらゆらゆらとして
 いる情景が見えたようでした。「海」という漢字は、その中に「母」
 という漢字が入っていることからも語源は「産み」ではないか、という
 お話はこの詩にぴったりで、より味わいが深まりました。

 これはあくまで杉山香織氏が書いた論評である。
 実際にビナード氏が「海」という漢字についてどういう話をしたか、現場で聴いていない立場としては、よくわからないが、もしここで杉山氏が書いているとおりだったら、ビナード氏も杉山氏も大きな誤解、事実認識をしているように見える。

 「海」や「母」という漢字は中国人が作ったもので、今の北京語であれば「海」は hai、「母」は mu という単語を表す。假に日本語で ocean を意味する「うみ」が birth を意味する「うみ」(マ行五段動詞「うみ」の連用形)と同系だったとしても、それは日本語の語源であり、中国人が漢字を作ったとき、日本語の「うみ」という単語が年頭にあったはずがない。

「海」の中に「母」があることは確かだ。日本では「毎」の下や「海」の右下の部分が「毋」になっているが、本来は「母」である。Wiktionary(ここでは「Wik辞典」と略して呼ぶ)に「海」を叩きこむと、中国大陸の字体では「海」の右下が「母」になる。
「毎」に至っては下が「母」の「每」が独立した項目になっている。

「母」は日本語の音読みで「モ」mo または「ボ」bo、「毎」は日本語読みで「マイ」mai で「母」の「モ」mo とは初めの子音が共通であり、「海」の音読みは「カイ」kai で、今度は「毎」の音読みとは後半の母音 ai が共通である。
「海」の日本語音読みの「カイ」kai の k はシナ語の h を借用したもので、「海」を北京語で hai と読むのは「上海」Shanghai でおなじみである。

「母」→日本語音読み「モ」 mo  ― 朝鮮語 mo  ― 北京語 mu
「毎」→日本語音読み「マイ」mai ― 朝鮮語 mae ― 北京語 mei
「海」→日本語音読み「カイ」kai  ― 朝鮮語 hae  ― 北京語 hai

もちろん、日本語で「母」が単独で「はは」、「毎」が「ごと」、「海」が「うみ」であるように、朝鮮語でも固有語では「母」は eomeoni、「毎」は mada、「海」は pada である。
朝鮮語では「父母」が pumo、「毎日」が mae-il、「海岸」が hae-an というようにシナ語系の熟語で「母」mo、「毎」
mae、「海」hae が用いられる。
固有語で「毎日」は nal-mada(日本語の「ひごと」に相当)、「海岸」は pada'ka(日本語の「うみべ」=「海辺」に相当)である。
└→「海」と「母」の字源は、和語の「うみ」および「うむ(生む、産む)」とは無関係

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2009年3/19 3/18~22