漢字の書き分け3 

 「国」と「域」
 「国」と「圀」も中国大陸では「国」guóになる。
 上古代漢語で「國」kuəkは「域」ɦɪuəkと同系であった。則天武后が「國」の中を「或」を「『惑う』を連想される」として嫌い、「圀」という異体字を作ったらしい。「域」は現代北京語でyù、日本語音は「ヰキ」wikiと「ヨク」yokuである。
「囗」の中に「王」を書くのは会意文字とし解釋していいだろうが、「国」は日本語音で読んだ場合に「玉(ギョク)」の音が「コク」に近いので、略字の形声文字と解釋できる。
中国大陸では日本と同じく「國」を「国」にし、「域」はそのままだ。しかし、現代北京語では「或」huò、「惑」huòと「國」guóは音が似ている。「域」yùは「玉」yùと同音なので、むしろ、北京語を使うなら、「國」の字体をこのままにして、「域」の右側を「玉」にしてもよかった。
 五輪に参加したチームの数をあらわす場合、「国と地域」という言い方が慣用となっており、これは中国大陸と台湾などを別に数えた場合である。しかし、本場の中国では「国家和地区」guójiā hé dìqūのように「地区」を使う。これは「地域」dìyùが「地獄」dìyùと同音だからではなかろうか。
 「120の国と地域が参加」では国が120なのか、国と地域で120なのか、曖昧になる。どうせなら、「国」を除外して、「日本、中国本土、韓国、台湾など120の地域が参加」のように全部「地域」と言ったほうがいい。地域は国家とは限らないが、国家は必ず一定の地域と重なる。
 「摑」と「掴」の場合、紙に印刷された活字では「摑(つか)む」が圧倒的に多いが、パソコンで「つかむ」を変換すると「掴」が出て、「摑」は環境依存文字(つまり、化けやすい不安定な字)になる。中国大陸では略字の「掴」guāi、guóを使う。さらに、昆虫の名前の「蟈(=虫+國)」guōも「蝈」になる。「蝈蝈儿」guōguorは「キリギリス」のことらしい。

 「曷」と「喝」「喝」、「示」と「ネ」「肖」と「鞘」「礼」と「禮」
 「曷」héは「葛」gé、gĕと「喝」hē、hè、「渇」kĕに使われており、中国では字形の上で「曷」に草かんむり、口偏、サンズイをそれぞれつけただけである。日本では「葛飾」などの「葛」の下が「L+人」か「ヒ」かで大問題になり、異体字を受け付けない潔癖症が蔓延している。「諸葛孔明」の「葛」は「葛飾」の「葛」と同じであり、草かんむりの下は「喝」の右と同じであり、下が「L+人」でも「ヒ」でも同じことだ。
 「肖」xiāoの系列は「消」xiāo、xiào、「宵」xiāo、「銷」xiāo、「悄」qiāo、qiăo、「蛸」shāo、xiāo、「稍」shāo、shào、「硝」xiāo、「鞘」shāo、qiào、「削」xiāo、xuēなど、数多いが、「肖」は「小」xiăo(縱棒の両脇に点をつけたもの)と「肉」であり、中国の活字ではこれらの形声文字の「肖」はすべて単独の「肖」と同じで、「月(<肉)」の上の「小」の名前の画の向きが逆になっている。このように、ある漢字の字体を決めると、他の漢字の部品になっている場合でも、その字体を徹底させるのは中国大陸人の合理的なところで、日本の漢字のような中途半端さは、かえって戸籍などで混乱を招いている。
 第一声の「肖」xiāoは「蕭(>萧)」という姓の俗字で、第四声の「肖」xiàoは「似ている」を意味し、「肖像(せうじやう)」xiàoxiàngに使われ、「不肖(ふせう)の弟子」は「師匠に似ていない弟子」の意味で謙遜に使う。中国大陸で「肖」xiāoを音符とする「趙」zhàoを「赵」にしているが、これは「赴」fù(音符は「卜」bŭ)と紛らわしい。
 「礼」は「禮」の略字であり、「礼」もある。逆に「ネ」と「豊」を組み合わせた「ネ豊」もありえるが、これは「禮」と同じなので、中国系の電脳網で「ネ豊」が「禮」と表示される。そこをわからないで、「『ネ+豊』を使いたいのに活字が『禮』しかない」などということを悩むのは無駄である。同様に、「祷」と「禱」も同じ漢字だ。最近では異体字による代用を嫌って、子供につける名前などで、普通と違う異体字を使いたがる人が多い。「戦後国語改革」を庶民が否定していることになる。

南大門「崇禮門」の表記
 放火で焼け落ちた韓国の南大門こと「崇禮門」は、寺院での表示が縱書きで「崇ネ豊門」であり、Wikipediaの中国語版でも「崇ネ豊門」と表示されている。この文字を日本語のWordの上にコピーすると「崇禮門」になる。ちなみに、「崇禮門」は朝鮮語で Sung-rye-mun>Sung-nye-mun[suŋnemun]、北京語でChónglĭménになる。これは簡体字で「崇礼门」になる。

「祀」「神」「福」「祈」「祷」
 「終戦」後、20世紀後半の日本と中国では示偏を「ネ」にするように決めており、中国はそれが日本より徹底していて、「祀」sìも中国では「ネ巳」、「禛」zhēnも「ネ真」である。日本の一部で、子供につけた名前の漢字で「祈」の左が「示」の「示斤」だと主張する人がいるようで、そういう人は「祈」で示されると不満らしい。中国大陸では否応無く「祈」になる。逆に「ネ」でなく「示」がいいなら、「神社」や「福田」の示偏も全部「示」に戻さないといけない。「神」と「福」は環境依存文字で、電子メールなどでは化ける可能性がある。
韓国ドラマ『太王四神記』の場合、ホームページ(www3.nhk.or.jp/kaigai/taioshijinki/)を観るとわかるように、画面では「神」が「神(=示+申)」である。これは字体というより書体の違いだ。
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2009年3/4 3/18

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