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「悟空」が「武昆」 

m 声母が w になったものは、多いが、決してすべてではないので、m が残っているものもある。
それは「亡」wang に対し「忙」mang、「未」wei に対して「妹」mei、「万(=萬)」wan に対する「邁」mai、「問」wen に対する「門」men など、形声文字の w と m の対応に見られる。
「訪問」は北京語で fangwen と読めば2文字目が「問」だとわかるし、「專門」は北京語で zhuanmen であるから「門」だとわかる。

岩波文庫、小野忍・譯の『西遊記(二)』1978年版の2003年第27刷、324ページによると、第二十回の黄風嶺(くわうふうれい)の話で、「五爻」wuyao が「無肴」wuyao の掛詞(かけことば)だという説明がある。
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八戒 五爻 無肴で検索

「無」は「武」と同様、日本語音で「む」または「ぶ」である。「無地」は「むぢ」で、「無事」は「ぶじ」である。大陸簡体字で「无」になったせいで、手書きでは「天」tian とまぎらわしい。
北京語で「無」wu の声母は w になっているが、「南無阿弥陀佛」などの「南無」namo では「南」nan と「無」wu の組み合わせで「南」を na、「無」を mo と読む。

藤堂明保の『学研漢和大字典』によると、「悟」「五」と「無」「武」が wu になるような変化は宋・元・明の時代から生じたもので、『西遊記』の舞台となっている唐の時代には「五」と「悟」は ng のような舌根音で始まり、「無」や「武」は m のような両唇音で始まっていたようである。
だから、『西遊記』にある「五爻」wuyao が「無爻」wuyao の掛詞は唐の發音ではありえなかったし、「悟空」が「武昆」になることもなかっただろう。

日本語で「悟空」が「ごくう」Gokū で、「武昆」が「ぶこん」Bukon、Bu Kon で、最初の子音が G と B で違い、現代北京語で考えて、音が似ていると理解できることに、それが現れている。

「問題ない」「だいじょうぶ」に当たる北京語の表現は「没問題」mei wenti であるが、これが廣東語では「無問題」mou mantai になる。
北京語で「無」wu と「問」wen が w で始まるのに対し、廣東語の「無」mou と「問」man は声母の閉唇を残している。

廣東語では「武」は mou であるが、「呉」は ng だけになっている。
廣東語では「五」も ng だけであるが、これは唇を閉じて m で發音されるようだ。
北京語の「不」bu に当たる廣東語の否定語は「唔」は m になっている。
鼻音だけになると m も n も ng も区別がなくなるらしい。
『新華字典』では「唔」は子音だけで m、n、ng の3つの項目に掲載されている。
「嘸」は m と發音される。
「母」は mu、「姆」は mu または m、否定語の「毋」は wu である。'''
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北京語で「忙」「盲」が mang であるのに「亡」「忘」「望」が wang であるのは m の閉唇が弱まったせいであるが、もとの m が無声音(唇を閉じた鼻息)であったために、w の前に h がついた hu、または圓唇もなくなったただの h として残り、これが日本語で k で採用された例がある。

「忙」「盲」mang ←→ 「亡」wang ←→ 「荒」「肓」huang
「毛」mao ←→ 「耗」hao
「梅」mei ←→ 「悔」hui ←→ 「海」hai
「墨」mo ←→ 「黒」hei

w は上下の唇が接近するとともに、舌根が軟口蓋に接近するため、摩擦の弱い [β] と [γ] を同時に發音しているようなものである。
William が英語で Bill、佛語で Guillaume になる。
ロシア語で正書法の г/g/ が [v] になるのは g が消滅し、v が出現した結果のようである。

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2009年3/10