第62話 それでも、この道を選んだ

オリオン社との契約は終わった。

最後に届いた一枚の通知。

それを見た時、不思議と肩の力が抜けた。

長年、毎月のように引き落とされ続けた支払い。

 

その重荷から解放されたという安堵。

もちろん、決して気持ちの良い終わり方ではなかった。

それでも、一つの区切りがついたことだけは確かだった。

 

しかし、心は晴れなかった。

個人再生を申し立ててからというもの、2、3日に一度は同じことを考えてしまう。

「本当に、この選択でよかったのだろうか。」

その問いは、決まって夜になると頭をもたげてくる。

眠れないまま天井を見つめながら、何度も計算する。

 

カードローン。

住宅ローン以外の借金。

互助会。

太陽光発電。

数字を足していく。

そして最後には、いつも同じ結論になる。

「……やっぱり、仕方なかった。」

 

自分に言い聞かせるようにつぶやく。

翌日になると、また迷う。

そして、また計算する。

その繰り返しだった。

 

少しでも安心したくて、毎日のように個人再生について調べた。

借金は大幅に減額される。

家を残せる可能性が高い。

仕事も失わずに済む。

借金の理由で手続きができなくなることもない。

画面には、そんな「メリット」が並んでいた。

 

読み進めるたびに、

「よかった……。」

そう思える瞬間もある。

だが、そのすぐ後に「デメリット」の文字が目に飛び込んでくる。

 

ブラックリスト。

官報。

費用。

時間。

そして――

職場に知られる可能性。

 

和也はスマートフォンを閉じた。

これが、一番怖かった。

互助会から借りたお金。

裁判所から通知が届けば、返済は止まる。

そうなれば、担当者は気づく。

その先はどうなるのだろう。

直属の上司へ伝わるのか。

管理職へ報告されるのか。

それとも、さらに上まで話が上がるのか。

 

考えても答えは出ない。

それでも考えてしまう。

職場で誰かと話していても、

「もしかして、もう知っているのでは……。」

そんな疑いが心のどこかから湧いてくる。

 

そんな自分が嫌になる。

住宅ローンも気がかりだった。

個人再生をしても、住宅ローンだけは終わらない。

 

佐々木弁護士は以前、

「ボーナス払いだけ延長してもらう方法もありますから。」

と何気なく話していた。

 

和也も調べてみた。

返済期間を延ばす方法。

一括返済を避ける制度。

一定期間返済を猶予してもらう仕組み。

いくつかの選択肢はあった。

 

だが、どれも「先送り」にすぎない。

返済がなくなるわけではない。

未来の自分へ、支払いを託すだけだ。

それなら、ボーナス払いだけでも何とか見直せれば——。

そんな希望を持つしかなかった。

 

けれど、本当の不安は別にあった。

長男の大学。

入学まで、あと一年。

受験料。

入学金。

授業料。

教科書。

一人暮らしになるかもしれない。

そのたびに、必要なお金は増えていく。

 

「親として、何とかしてやりたい。」

その気持ちだけは、借金を抱える前も、今も変わらない。

変わったのは、その方法だった。

以前なら足りなければ借りればいいと思っていた。

今は違う。

もう借りられない。

 

だからこそ、知恵を絞るしかない。

節約する。

制度を調べる。

奨学金も考える。

親としてできることを、一つずつ探していくしかない。

 

和也はスマートフォンを静かに机へ置いた。

不安は消えない。

後悔もある。

それでも、70日以上歩いてきたこの道を、今さら引き返すことはできない。

 

いや——。

引き返したところで、待っているのは、あの借金に追われる毎日だけだ。

だから前を向くしかない。

そう自分に言い聞かせながら、和也はゆっくりとカーテンを閉めた。

 

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個人再生に直面した40代男性の葛藤を小説風に振り返りました。 

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