やはりロマン・ロランは大事な真実を記している作家だ。彼ほどに克明に証言している作家はほかにいないだろう、と言いたくなる。これは彼の作家としての不備を充分補うものだろう。
初再呈示
- テーマ:
- ロマン・ロラン『魅せられたる魂』
『彼は、アンネットの心を傷つけるような無反省な言葉を(彼女はそれを表面には示さなかったが)口にした。次の瞬間には彼はもう自分の言ったことを憶えていなかった。ところが、それを聞かなかったかに思われたアンネットは、十日後にも、十年後にもそれを繰り返すことができたであろう。彼女はそれをあざやかに記憶し、傷口は開いたままであった。それは彼女にもどうにもならなかった。彼女は寛大で、そしてそれを忘れてしまうことのできない自分を責めた。しかし、女の中でいちばんやさしい女でも、内心の侮辱を赦すことはできようが、それを決して忘れはしない。』
第一巻253頁(岩波文庫)
この事実に男女の区別はない。