初再呈示

 

ヘルダーリンもまたぼく同様の経験をした、それだけで友だ。この経験に誰でも至るわけではない。ヘルダーリンが友だと誰でも思えるわけではない。

 

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かつて二年いて、ぼくが人生の真の損失だったと、いまも感じているドイツは、思索と行為によって極限まで貧しくされた文化風土の地だったのだ。この、逆説というよりはあまりに必当然な、人間を窒息させる空間の本質を、ヘルダーリンが己れを託するヒュペーリオンの手紙ほど、告白しているものはない。この小説の最初から痛切に語られていることである。 

 

《きみたちドイツ人のあいだによく見うけられる賢明な人たちは、 ・・・わたしに次のように教えることによって自分たちの喜びとしたのだ。「嘆いてはいけない。行為せよ」と。

 ああ、わたしは行為しなければよかったのだ。それならわたしは現在、どれほどもっと幸福だったろう。どれほど今より希望に富んでいたことだろう。

 そうだ、人間どうしのことは忘れてしまうがいいのだ。さまざまの苦しみと憤懣をかさねて飢え求めている心よ、そして帰って行くのがいいのだ、おまえの出で立ったところへ、自然の腕のなかへ、うつろわぬ静かな美しいこの母のふところのなかへ。》

 

ヘルダーリン『ヒュペーリオン』 4頁