『彼は、アンネットの心を傷つけるような無反省な言葉を(彼女はそれを表面には示さなかったが)口にした。次の瞬間には彼はもう自分の言ったことを憶えていなかった。ところが、それを聞かなかったかに思われたアンネットは、十日後にも、十年後にもそれを繰り返すことができたであろう。彼女はそれをあざやかに記憶し、傷口は開いたままであった。それは彼女にもどうにもならなかった。彼女は寛大で、そしてそれを忘れてしまうことのできない自分を責めた。しかし、女の中でいちばんやさしい女でも、内心の侮辱を赦すことはできようが、それを決して忘れはしない。』 

 

 

 

第一巻253頁(岩波文庫) 

 

 

 

この事実に男女の区別はない。