これまで生きていて気づくのは、存在には人間への、はっきり言えば人間の愛への、明白な悪意がある、ということだ。「秒速」の裏のテーマはこれであることは、気づかれてよい。この作品の中で主人公のモノローグとして言われる「(存在の)明白な悪意」は、かりそめの言葉ではなく、全編を覆っていることに気づくべきだ。「秒速」の解説をするつもりではなかったが、結果としてそのことにも気づいた。ぼくの、これまで生きてきたことのなかで気づくことなのだ。人間の不幸は、自然なことではなく、意図的なものである。だから、だれもじぶんだけを責めることはなく、他者を責めるだけのこともない。これから生じる結論は多いだろうが、いまここでそれにゆくつもりはない。ただ、もっとゆったり構えていていいということは言える。